ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ヘイトフル・エイト』(2015) クエンティン・タランティーノ:脚本・監督

 なかなか珍しい「65ミリフィルム」で撮影され、上映には70ミリに転写され、「70ミリ映画」として上映されたという。おかげでぐ~~~んと横長の画面である。

 映画の時代は「西部劇」の時代なのだけれども、このストーリーは「西部劇」というよりも「密室ミステリー」というようなもので、「西部劇」という背景は「誰もが自由に銃を持ち、他人を射殺することがあり得る<暴力>の時代」ということをストーリー展開に生かすための処置のようではある。
 もちろんそれは『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』のようなギャングたちの跋扈する世界でもかまわないだろうし、『イングロリアス・バスターズ』のように「戦争中」であってもかまわないだろうが、このドラマのいろんな背景から「西部劇」の時代が選ばれたのだろう。

 ストーリーは南北戦争の数年後、レッドロックへ向かう駅馬車の停車地の「ミニーの紳士服飾店」に、猛吹雪で閉じ込められた見知らぬ8人をめぐって展開する(8人以外にも登場人物はあるが)。
 主役級はアフリカ系ながら「賞金稼ぎ」で世渡りしているマーキス・ウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)あたりで、彼は前作『ジャンゴ 繋がれざる者』のジャンゴを彷彿とさせられるところがあるだろう。
 物語はやはり「賞金稼ぎ」だが、捕まえた犯罪人の「首吊り」までを見届けるのがポリシーというジョン・ルースカート・ラッセル)と、彼が手錠で繋いで連れている1万ドルの賞金がかけられている女犯罪人(どうやら盗賊一味の首領らしい)のデイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)、そしてレッドロックの新任保安官として現地へ向かう途中だというクリス・マニックスウォルトン・ゴギンズ)らが絡んで来る。

 ウォーレンは昔リンカーンと文通をしていたといい、今でもリンカーンからの手紙を大切に持っているが、その真偽は不明である。また、マニックスがじっさいに「新任保安官」なのかということも真偽不明である。
 さらに、この4人が駅馬車で雪の中なんとか「ミニーの紳士服飾店」に到着したとき、店の中には4人の先客があり、この店のオーナーのミニーらが「今日は出かけている」というのだが、ミニーをよく知るウォーレンはそのことを怪しむし、ルースはこの先客の中にドメルグを奪還しようとする盗賊仲間がいると怪しんでいる。

 さて、先に人種的な偏見でウォーレンと反目していた元南軍の将軍、サンディ・スミザーズ(ブルース・ダーン)がウォーレンに射殺されるが、そのあと誰かが淹れたコーヒーを飲んだルースと他1名が血を吐いて死んでしまう。「この中にコーヒーに毒を入れたドメルグの仲間がいる」と踏んだウォーレンは、そのときコーヒーを飲みかけていたマニックスだけは「敵」ではないだろうと、彼と組んで「犯人」を暴こうと推理して行くのである。

 実際にはウォーレンとマニックス以外の連中3人、プラス床下に隠れていたドメルグの弟との4人は皆、ドメルグ救出を目論む強盗団なのだった。
 タランティーノらしい派手な撃ち合いのあげく、手錠をかけられたままのドメルグ以外の一味は皆撃ち殺され、ウォーレンもマニックスもひん死の重傷を負う。ウォーレンとマニックスは、「自分たちが死ぬ前に」と、ドメルグを絞首刑にかけるのであった。

 けっきょく最後まで、マニックスが実際に「新任保安官」だったのかどうかはわからないままだし、ウォーレンがリンカーンと文通をしていて本物のリンカーンの手紙を持っていたのかもわからない(劇中、一度はウォーレンはそのことを「はったりだよ」と言うが、映画ラストではその手紙は「ホンモノ」だったような印象を受ける)。

 ジェニファー・ジェイソン・リーの「あばずれビッチ」ぶりの演技は見事なのだけれども、例えば『イングロリアス・バスターズ』でナチスユダヤ人への残虐行為が描かれなかったから「バスターズ」の連中のナチスらへの行為が「残虐」と感じられもしたように、この作品でも、そのジェニファー・ジェイソン・リーが実際にはどんな暴虐の限りを尽くしたのか語られることもなかったので、ラストの「縛り首」はやはり「残虐」と感じてもしまった。

 相変わらず3時間近い長尺の映画で、確かにこの脚本もさすがに面白いのだけれども、もうちょっと整理して短くしても良かったのではないかとも思う。一本の映画として見れば、ブルース・ダーンの「南軍将校」の話はなくってもかまわない気もするが、タランティーノとすれば、ここで「南北戦争の数年後」という時代背景をあらわしたかったのだろう。