この4編でようやく読了。次はハイスミスの中後期短篇集、『目には見えない何か』を読むのだ。
●「スタイナク家のピアノ」(The pianos of the Steinachs)
主人公のアグネスは「自意識過剰」というか「夢想家」というか、35歳になってなお少女のままのような女性である。家族は母のミセス・スタイナクと3歳年上のマーガレットとの3人で、家族はアグネスのことをわかっているようではある。家はピアノ教育を行っていたのか、居間には2台のグランド・ピアノがあるが、少し調律が狂っている。アグネスもピアノは習っていたらしい。
そこに、サンフランシスコの音楽学校の生徒のクレットをニューヨークで学ばせるため、週末だけスタイナク家に泊めることになる。アグネスは勝手にクレットのことで想像を膨らませ、想像の中で2人は恋人になるが、それをマーガレットが邪魔をすると思い込む。
読んでいるとクレットの反応は予想外なのだが、ラストのアグネスは狂ってはいるだろう。
●「とってもいい人」(A mighty nice man)
外で遊んでいた2人の幼い女の子のところに男が通りかかり、うち一人に「わたしの車に乗らないかい?」と誘う。
女の子は男の車に乗って出発するが、そこで道に出て来ていたお母さんの姿を見て、男は彼女を車から降ろしてどこかへ行ってしまう。
ま、道に誰もいなければ、彼女はどこかへ連れて行かれていたことだろう。
●「静かな夜」(Quiet night)
アリスとハティ、2人の老女はずっと、ホテルの一室でいっしょに暮しているのだが、お互いに友情も感じているのだが憎悪感もある。けっきょく、ひどいことをされたとしても許し、いっしょに暮して行くのだ。
●「ルイーザを呼ぶベル」(Doorbell for Louisa)
ルイーザはニューヨークの会社で秘書をやっているのだが、ある日、彼女の住むアパートに住む祖母と孫娘2人の家族が全員、猩紅熱で寝込んでしまうのだ。ルイーザは会社を休んでその家族の看病をするのだが、翌日、会社の上司から思いがけない贈り物をもらうのだ。
「スタイナク家のピアノ」にも「その展開、ホントかよ!」というところがあるのだけれども、この作品も「ホントかよ!」という感じ。でもこの短編集のラストがこういう「いい話」というのもなかなかだ。
全体に、その視点をどこに置くかによって展開させて行く作品が多く、そのあたりの「ちょっとマトモではない」精神の視点から描くとき、ハイスミスの筆力が極まるようではあった。彼女の長篇でいえば『イーディスの日記』を思い起こさせられるような。