ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『散歩する侵略者』(2017) 前川知大:原作 黒沢清、田中幸子:脚本 黒沢清:監督

 原作はもともとは演劇作品で、わたしもその名は知っている劇団イキウメの作品で、作者は前川知大黒沢清はその小説版を読み、映画化への意欲を持ったらしい。

 物語は加瀬鳴海(長澤まさみ)と真治(松田龍平)の夫婦のパート、それとジャーナリストの桜井(長谷川博已)を中心としたパートとに分かれている。
 加瀬真治はしばらく行方不明になっていて、鳴海のもとへまるで別人のようになって戻って来ると、「実は自分は宇宙人なのだ」と言う。真治は人間のことはよくわからないので、鳴海に「ガイド」になってほしいと言う。
 一方、桜井は一家惨殺事件の取材をしていて天野という青年と立花という女子高生と出会うが、この二人も宇宙人で、地球を侵略に来たのだと言う。天野と立花とは桜井のことをやはり「ガイド」とし、はぐれてしまった加瀬真治のことを探す。桜井は二人の言うことを信じるようになり、この二人を加瀬真治と会わせてはならないと思うのだが。

 彼ら宇宙からの来訪者は地球人の身体を乗っ取って行動しているようだが、そんな宇宙人にはわからない地球人の持つ「概念」があり、それらを地球人から「もらう」のだが、「概念」を取られた人間はその「概念」を失ってしまう。例えば「家族」、例えば「仕事」などなど。

 こんな書き方ではいったいどういうテイストの映画なのか、まったくわからないと思うけれども、「宇宙人が地球を侵略する」というところでのギスギスしたところはないというか、彼らが人から「概念」を奪うという展開はけっこう面白くも喜劇的でもあり、この映画のひとつの「テーマ」のようにも思える。一方で人間側も宇宙人の存在を知ることになるようで、武器を持つメンバーが桜井や宇宙人のグループを狙うことにもなるし、最後には「戦闘機」による攻撃にもなってしまう。

 そういう桜井パートはたしかにSF的といえばSF的な展開を見せるが、加瀬夫妻パートの展開はまるで違い、鳴海は自分と真治とを結ぶ「絆」を求めるようでもあり、最後には真治の理解できない概念、「愛」を真治に奪ってもらい、真治という宇宙人の考えを変えさせようとするのだが。

 映画として、「これは黒沢清でなくってはつくれない味わいの映画だろう」と思い、一面でコミカル、一面で暴力的ともいえる作品の流れに身をゆだねる。
 うれしいのはけっこう久しぶりに、カップルが「浮遊するような車に乗ってドライヴする」という、『CURE』で惹き込まれたシーンが再来したことでもあり、黒沢清の映画の「マジック」を堪能できる。
 ラストをどう解釈するかという「奥行き」を含めて、魅力的な映画ではあったと思う。そう、長澤まさみという俳優さんは初めて観たけれど、いい俳優さんだな、などとは思うのだった。