原題は「What The Shepard Saw」で、つまりは「月夜の晩に羊飼いが見たもの」という感じ。
まず、まあ「羊飼い」といってもまだ少年で、夜に羊たちを見張るように老羊飼いに言われて小屋の中に詰めている。その小屋の近くにドルメンの遺跡があるのだけれども、そこに夜中に若い男があらわれ、誰かを待っているようである。そして若い女が続いてあらわれるが、それは地主の若い夫人だった。
若い男は夫人に思いを寄せているようで、自分の思いのたけを夫人に語るのだが、夫人は受け入れない。男は「ではまた明夜かその次の夜、もういちどわたしとここで会ってほしい」と言い、二人は別の方向に分かれて行く。
次の夜、小屋に羊飼いが詰めているとそこに地主があらわれ、羊飼いに「この場所に居させてくれ」という。また昨夜の男があらわれたところで地主は外に出て、男に近づいていく。羊飼いは窓から、地主が倒れた男を引きずってドルメンの裏側へ行くのを見る。
そのあと地主は羊飼いの少年に、「わしはお前に金を出して学校へ行かせよう。羊飼いではないもっとしっかりした仕事に就くのだ。しかし、そのあとはこの夜に見たことを誰にも話してはいけないし、自分が過去に羊飼いだったということも人に言ってはならない」というのだ。
それから二十余年が過ぎ、羊飼いの少年は町の執事になっている。そして地主の夫人は数年前に若くして病死している。執事になった男は、そのときになってあの例の夜に、自分に羊の見張りをさせた老羊飼いが丘の上からすべてを見ていたことを知る。そしてその老羊飼いは今、臨終の床にあり、どうやら死ぬ前に司祭にあの夜のことをすべて告白するつもりなのだ。
このことを執事は地主に話し、おそれをなした地主はその夜中、自分の部屋をこっそり抜け出してドルメンへ行き、かつての犯罪の跡を消し去ろうとしたようだ。しかしドルメンから戻ってきて、自分の部屋に窓から入ろうとした地主は足を踏み外して落下、死んでしまうのだった(まあこれ以外に、多少ストーリーを補足するサブ・ストーリーみたいなのもあるけれども)。
むむむ、あんまり面白くもない話ではあった。いろいろと作為が目立つ気がするし、けっきょくは老羊飼いがすべてを見ていたという「落ち」だけみたいではある。登場人物は皆、作者の語るストーリーの道具立ての要素に過ぎない感じで、そこには作者からの、人間性というものへと向けた視線も読み取ることは出来ない。妙に背景仕立てがリアルなだけに、その作為が目立ってしまったのではないかと。まあ原題の「What The Shepard Saw」での「Shepard」が、前半を読んで思うような「羊飼いの少年」だけを意味していたわけではない、というトリック。