ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『逃走迷路』(1942) アルフレッド・ヒッチコック:監督

 原題は「Saboteur」で、ヒッチコックの1936年の作品『サボタージュ』に似ているけれども、「Saboteur」とはサボタージュ・破壊行為を行う人というように意味になるらしい。
 この作品もセルズニックとは無関係につくられた作品だと思ったが、ヒッチコックはまずこのシナリオをセルズニックにみせて映画化の許可をもらい、その上でヒッチコックが他のプロダクションに貸し出されたというかたちを取っていたらしい。じっさい、映画冒頭にも「監督:アルフレッド・ヒッチコック」の表示のあとに、「Through the courtesy of Selznick Production」とは書かれているのが読めた。いろいろ読むとそのことがヒッチコックにとって不利に働いたらしいのだが(主役の2人の決定に不満があったらしい)、では『海外特派員』や『断崖』はどうだったのか、ということはよくわからない。
 ヒッチコックは途中で新たに脚本家を呼んで執筆させ、クレジットには3人の脚本家の名前があったけれども、じっさいにはさらに多くの脚本家を協力させ『海外特派員』みたいなかたちで製作を進めたのではないかと思う。というのはこの映画、さまざまな「山場」的なシーンがてんこ盛りなのだけれども、その山場と山場とをつなぐストーリーについては「なおざり」というか、「どうしてそうなったの?」みたいな不可解なことばかりが起こる印象がある。おそらくは脚本家ごとに「山場」を書いてもらい、それをつなげて行って1本の作品にしたのではないかと思える。だから山場ごとのつながりが希薄なのではないのか?

 主人公のバリー・ケイン(ロバート・カミングス)は軍の航空機工場で働いていたが、あるときその工場で放火事件が起き、バリーはそれまで工場で見かけたことのないフランク・フライという、ウラジーミル・プーチンによく似た男から消火器を受け取り、それをそばにいた友人に渡すのだが、その消火器にはガソリンが詰められていて火災はさらに大きくなり、友人も焼死してしまう。なおも悪いことに、バリーこそがガソリン入りの消火器を使った男として告発され、追われる身となる。
 バリーは火災の直前にフランクが持っていた手紙から彼の住所を記憶していて、ヒッチハイクでその住所の農場へと行く。その牧場のオーナーのチャールズ・トビンは「フランク・フライという男など知らない」と言うが、実はチャールズもまた、フランクに指導する破壊工作団の黒幕なのだった。そこでバリーはフランクからの「ソーダシティで会おう」という電報を目にするが、チャールズの呼んだ警察につかまってしまう。

 途中でうまく逃げ出したバリーは、盲目の紳士の住まいへと逃げ込む。紳士は「わたしは目が見えないからわかるが、あなたは悪人ではない」という。そこに紳士の姪のパット(プリシラ・レイン)がやって来て、パットといっしょにソーダシティへ行くことにする。パットはバリーを警察に突き出そうとするが、そこはヒッチコック映画のことなのでバリーのことを信じ、さらには愛するようになってしまう。
 車がエンストしてしまった2人は、トラックで移動するサーカス一座といっしょになったりし、人気(ひとけ)のないゴーストタウンのようなソーダシティへ着く。
 廃屋にあった通信装置などから、バリーとパットはチャールズやフランクらがそこの小屋から望遠鏡で見えるダムを、ウクライナでみたいに爆破しようとしていることを知る。そのダムが破壊されればカリフォルニアの多くの地域が停電してしまう。

 そこに破壊工作団の男ら2人がやって来て、バリーはとっさにパットを外に逃がし、2人には自分のことを「航空機工場を爆破した仲間だ」と伝える。バリーはその2人とニューヨークへ行き、ある慈善家夫人の主催するパーティー会場に着く。そこにはまたパットの姿もあったのだった。
 パットはまず盲目の叔父に電話をしてチャールズの正体のことを伝え、自分は現地の警察署へ行ったのだったが、その署長は一味だったのだ。じきに自宅を警察に踏み込まれ、危うく逃げて来たチャールズがあらわれ、バリーの正体もばらされてしまう。
 逃走したバリーは次の破壊グループの標的がブルックリン海軍工廠での戦艦の進水式だと知り、会場へと急ぐ。そこにはまさにフランク・フライもいて、爆破スイッチを押そうとしていたのだった‥‥。

 さいごは有名なシーンで、観光地になっている「自由の女神像」を舞台にして、フランクを追い詰めたバリーのスリリングなアクションが拝めるわけである。

 しかしまあ、この破壊工作団はルーズというか、バリーがいきなり「オレは仲間だ」と言って信じてしまうのがスゴいし、バリーも「いつその場にフランクとかチャールズみたいに自分の正体を知るヤツが来ないか」と考えなかったのか。だいたいバリーが仲間でないとわかったら、すぐに殺してしまえば良さそうなものだけれども、それはパーティーを開いた慈善家夫人が自分の目の前で人が殺されるのを嫌ったのだろう。
 パットにしても、ソーダシティからニューヨークに来たときにはいつの間にか着替えてるし。まあこれも、破壊工作団連中が「あんたはこれからパーティー会場へ行くからコレに着替えるんだ」としたと思うことにしよう。
 進水式での戦艦の爆破はギリギリ阻止出来たけれど、フランク以外の破壊工作団はみ~んな捕まってはいないし、「ダム破壊計画」は進行中。ま、バリーが「これこれしかじか」と警察に伝えるのだろうが。

 ‥‥どうもわたしは、そういう「つながらない不可解な脚本」のことばかりが気になってしまって、実のところあんまし、この映画を楽しめなかったのだった。