ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『最高殊勲夫人』(1959)増村保造:監督

 先日観た『青空娘』(1957)が好評だったもので、再び源氏鶏太の原作で、脚本は白坂依志夫、主演は若尾文子で撮られた作品。『青空娘』は「シンデレラ」を思わせる展開だったけれども、この『最高殊勲夫人』も、どこか「おとぎばなし」がバックにあるようなお話。
 ただ、父親との関係などはあまりメインではなく、今回は「誰と結婚しようかな?」みたいなラブ・コメディ。それでもDVDのジャケット写真とかを見ると、「誰と結婚するのか」な~んてことは本編を観る前からネタバレしてしまっている。それでその相手というのが、先に観た『妻は告白する』では「最悪」だった男を演じた、川口浩(まあ、この作品の方がずっと先に撮られているけれども)。

 杏子(若尾文子)は、野々宮家の三女。
 三原商事の社長・一郎(船越英二)と結婚している長女桃子(丹阿弥谷津子)、専務・二郎と結婚している次女は、三原家三兄弟の三男・三郎(川口浩)と妹・杏子を結婚させ、互いの三兄弟、三姉妹の「トリプルプレイ」を画策している。
 学校を卒業してブラブラしていた杏子は、三原商事に就職して社長の一郎の秘書となる。これが俄然社内の独身男らの注目の的となりちやほやされ、女子社員の嫉妬を買うことにはなる。
 三郎は三原商事に勤めてはいないが、兄の結婚式で杏子とは顔見知りで、何かと会う機会がある。しかし互いに、周りが勝手に二人を結婚させようとしていることに反発し、お互い絶対に結婚しないことを宣言する。
 三郎は別の社長令嬢の富士子(前衛生け花とか前衛書道の趣味を持つ)からプロポーズされているし、杏子に結婚を申し込む三原商事の社員も二人ほどあらわれ、富士子の兄のテレビプロデューサーも杏子に夢中になってしまうのだ。杏子にプロポーズした三原商事の男の一人は、「杏子は三郎と結婚させる」とする桃子の差し金で地方支社へ転勤が決まるし、もう一人は社内の別の女性社員の猛アタックでそちらと結婚することを決める。
 三郎は富士子と別れてしまうし、富士子の兄も杏子から遠ざけてしまう。つまりは三郎も杏子も「相思相愛」だったわけで、二人は三原家を訪ね、桃子に「会社のことに口出ししないこと」という条件を飲ませ、地方支社転勤されそうだった社員を本社に戻させ、二人は婚約したことを告げる。
 ラストは「トリプルプレイ」完成の、三郎と杏子の結婚式なのであった。

 映画の時制の1959年は「東京オリンピック」の5年前。まさに日本が高度経済成長の道を歩み始めた頃なのだろうが、「就職するというのは結婚相手を探すこと」という女性社員たちと、まさにそういう女性社員の中に彼女を得ようとする男性社員らは、「仕事してるんかいな!」って感じだけれども、当時のオフィス街の雰囲気はよく伝わってきた(昼食は「とんかつ屋」でそのあとは「あんみつ」、休憩時間は屋上でテニス、「ロカビリー喫茶」というものがある)。
 みんなそんな、まるで「モーレツ」ではない空気を満喫しているようだけれども、一方で野々宮家の父(宮口精二)はまだ50代で「定年退職」という身。「まだまだ働ける」からと仕事を探すというのが、そんな「時代」への視点になっていたかと思う。

 原作からカットしている部分も多いようで、三原家の次男夫婦の出番はほとんどない。しかし家庭では桃子に尻に敷かれて小さくなっている一郎が、バーのマダムと浮気して羽根を伸ばしているなどというのも、「時代」だろうか。
 人にあふれている「東京」の描写で、とにかく人が多い。満員電車の中も出てくるし、会社のエレヴェーターは「すし詰め」である。
 当時の観客は、「そうそう、こういう感じだよね」と、共感したのだろうか。