ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『紙の月』(2014) 角田光代:原作 吉田大八:監督

紙の月 DVD スタンダード・エディション

紙の月 DVD スタンダード・エディション

  • 発売日: 2015/05/20
  • メディア: DVD

 原作の角田光代の作品は、評判になった『八日目の蝉』は読んだ記憶があり、その映画化されたものも観たように思うのだが、今ではその内容とか何ひとつ記憶していない。
 それでこの作品を監督した吉田大八という人は、これまた評判になった『桐島、部活やめるってよ』の人だった。

 どうやらこの映画には、原作に登場しない人物が書き加えられていたらしい。その一人が小林聡美演じる銀行の「古参」。これはラストの宮沢りえ小林聡美との「対話」をみれば、それがヒロインの分身であることが了解され(小林聡美が「あなた、みじめなの?」と宮沢りえに問いかけるとき、彼女は自分のことを語っている。「徹夜」すらしたことのなかった二人。)、だからこそ宮沢りえのさいごのセリフ「いっしょに行きますか?」になるわけだ。

 わたしは先日までパトリシア・ハイスミスの『イーディスの日記』を読んでいたりして、この映画にもどこかに、ハイスミス流のサスペンスを読み取ろうとしちゃっていたのかもしれない。
 例えば、宮沢りえが銀行証券を偽造する場面など、「そうか、時代的に個人で高性能のプリンターを買える時代だしな」とか(現実にはむずかしいんじゃないかな?)、「印鑑の部分はプリントゴッコかよ!」とか、ちょっと映画『太陽がいっぱい』でアラン・ドロンがパスポートを偽造し、サインをマネする練習をするシーンを思い浮かべたりしていた。
 宮沢りえが月を「ニセモノ」と捉えたのは、『イーディスの日記』で崩壊していくイーディスが「現実と夢の世界の差は、耐えられない地獄だ」と捉えていたことに等しくはないだろうか。
 ちょっとした「歪み」が、大きな犯罪へと膨らんでいくのはハイスミスの作品の多くのパターンでもあっただろうけれども、この『紙の月』にもそのような認識はあっただろう。

 ただ、彼女のその「踏み外し」の対象である若い青年(池松壮亮)との関係の描写が、どこか「ありきたり」で、宮沢りえにとってこの「バカ男」に深入りしてしまうサムシングが、ちょっとわからない(ダンナに時計をプレゼントしたらさらに高価な時計でバックされたというのはショックだろうが)。

 ラストの「いっしょに行きますか?」以降の<ファンタジー>はけっこう見事で、バンコクまで飛翔した宮沢りえ(の思惟)がさいごに群衆の中に消えていくショットは、関係ないとはいえども『羊たちの沈黙』のラストを思い起こさせられるところもあり、映画というものの「共振」ということを思わせられる。

 それでエンド・クレジットにはバックにVelvet Underground(with Nico)の「Femme Fatale」が流れるわけで、まあ歌詞の通りに考えればこの映画の宮沢りえは「Femme Fatale」ではないだろうけれども、その「背徳的」空気は映画的にイイ感じではあった。