ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『クライング・ゲーム』(1992) ニール・ジョーダン:脚本・監督

 ニール・ジョーダン監督も、エドガー・ライト監督のように既成の音楽を使うのが上手な監督さん、という印象がある。1986年の『モナリザ』も、この作品のように既成曲がタイトルにもなっていて、泣かされる曲の使い方だったし、ずっとあと、2005年の『プルートで朝食を』でも、映画冒頭のルベッツの「Sugar Baby Love」の使い方は見事だった。
 そしてこの作品でも、タイトルの「Crying Game」はもちろんだけれども、冒頭のパーシー・スレッジの「When A Man Loves A Woman」、そしてラストの場面のライル・ラヴェットが歌う「Stand By Your Man」と、その歌詞が内容をフォローする、ステキな選曲ではあった。

 映画の舞台は北アイルランドで始まり、休暇中のイギリス軍兵士ジョディ(フォレスト・ウィテカー)はIRAのジュード(ミランダ・リチャードソン)のハニートラップにかかり、逮捕されているIRA隊員との交換捕虜とされる。
 人里離れたIRAのアジトに軟禁されたジョディの見張り役には、IRAボランティアのファーガス(スティーヴン・レイ)が当たることになり、互いに雑談をするうちに心をかよわせるようになる。ジョディは「自分が殺されたら、ロンドンにいる恋人のディルに会って、『愛していた』と伝えてほしい」とファーガスに依頼する。
 イギリス側が交換条件をのまないためIRAはジョディを処刑することにし、ファーガスに処刑役をまかせる。処刑しようとしたときにイギリス軍がアジトに攻め入ってきて、ジョディは装甲車に轢かれて死亡。ファーガスやジュードらは散り散りに逃走するのだった。
 アイルランドからイギリスに移り、ロンドンで「ジミー」と名乗って日雇い労働に従事しはじめたファーガスはディルと出会うことも果たし、ディルとの仲を深めていくのだった。しかし、そんなファーガスの居所を突きとめたIRAのジュードらは、ファーガスに新しい任務を与えようとするのだった。

 さいしょの、ファーガスとジョディとの会話が味わいがあっていいなあと思いながら観ていたのだが、ここでジョディがファーガスに語る「サソリとカエルの話」が、ラストにファーガスがディルに語るかたちでリピートされる。
 ファーガスはディルに、「自分は死ぬ前のジョディに会って伝言を頼まれた」と、さっさと言ってしまえばいいのに、などとさいしょは思ったが、考えてみたら、それは自分がジョディを拉致して殺した側の人間だと告白することになり、そんなことは言えっこないのだ。それで、そんな事情は話さずにディルにだんだんに打ち解けていく過程も面白い。

 わたしは今日この映画を観終えてから、この映画がこの年のアカデミー賞脚本賞を獲っていたことを知った。
 もちろんこの「脚本賞」には、この映画の別の大きなポイントのことも加味されてなのかとは思うが、そのことはまだこの映画を観てはいない人にはぜったいにネタバレしてはいけないことで、わたしもココでそのことを書いてしまわないように気をつけよう。
 わたしがさいしょにこの映画を観たときには、すでに何かの情報でその「秘密」を知ってしまっていて、「ああ、このことを知らないで観た人はココで驚愕するんだろうなあ。わたしはそれが出来なかった。残念だ」と思ったものだった。
 こうやって現在、いろいろと記憶障害を抱えてしまって、過去に観た映画のこともまったく記憶していないということも多いというのに、残念なことにこの『クライング・ゲーム』の「秘密」は、しっかりと記憶しているのだった。
 そういう記憶が失せてしまってくれていれば、今日この映画を観て「うわあ! そうだったのか!」と、いっぱい驚くことができたことだろうに、残念なことだ。

 しかしわたしもいつか、誰かにこの「サソリとカエルの話」を聞かせてあげるチャンスがあるといいなあ、などとは思うのだった(誰に?)。