ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『象の物語 神話から現代まで』(1990) ロベール・ドロール:著 南條郁子:訳 長谷川明・池田啓:監修

 著者のロベール・ドロールという人は、以前に『動物の歴史』というけっこう分厚い本を読んで知っていた。この「象」の本は、創元社の「知の再発見双書」の一冊として刊行されていたもので、わたしはこういうシリーズ本が出ているのはまるで知らなかったが、「絵で読む世界文化史」ということで、歴史、宗教、芸術など様々な分野にわたっての文化史全般の入門書的立ち位置か。すでに200冊ぐらい刊行されているみたいだ。知らんかった。
 元の版はガリマール社の「ガリマール発見叢書」で、その版権を創元社が買い取ったらしい。それぞれの巻を日本人の専門家が監修して執筆している。刊行リストを見ているとあれこれと読みたい本がある。

 この『象の物語』を読んで、やはり何よりも全ページカラーで掲載された図版が魅力的。本が小さいし、本文のすき間にはめ込まれてさらに小さくなり、ページのレイアウトに合わせてカットもされてはいるけれども、特にこの巻では今まで見たことのない絵や写真にあふれている。巻頭には全ページ使って8ページにわたって、インド、ティムール朝の『バーブル・ナーマ』という本からの挿画が掲載されているのがうれしい。やはりインド~中近東の中世美術は素晴らしい。

 この本、4つの章からなる本文と、「人と象、その交流をめぐる考察」という、日本人監修者のまとめた14の小文から成っている。4つの章は以下の通り。
 1:象の生態
 2:アジアとアフリカ:生と死のイメージ
 3:ヨーロッパの記憶
 4:狩りから大量殺戮へ

 「象の生態」では、マンモス絶滅の理由を探ることから、今地上に残るアジアゾウアフリカゾウ、それぞれの身体的特徴からその生活を紹介。「アジアとアフリカ:生と死のイメージ」では、神格化もされて家畜化されることも多く、狩猟や戦闘にも駆り出されたアジアゾウと、荒い性格で人に馴れることもなく、ただ狩りの対象とされたアフリカゾウとのことが書かれる。アジアの人々がいかにしてゾウを捕らえ、家畜として飼いならしていくか、という記述はとても興味深い。
 ヨーロッパ人のゾウとの出会いはアレクサンダー大王の東方遠征から始まる。このときアレクサンダー大王の一隊はまず、ペルシア帝国軍の15頭のゾウと戦い、さらにインドのぽロス王軍の200頭のゾウとも衝突した。ヨーロッパ人にとってゾウはまずは軍事用の武器であり、自分たちもさっそくゾウを入手して「戦象」として鍛えたのだった。しかし戦争の様式の変化と共にゾウは戦いに適応できなくもなり、のちには動物の闘技に引っ張り出されるようになる。
 その後長いあいだヨーロッパではゾウのことは忘れ去られ、19世紀のサーカスによって人々はゾウのことを知るようになる。
 そのあと、銃などの武器の発達によってゾウは狩りの対象とされてしまうし、さらに「象牙」の価値が増したことから、「狩り」を超えてゾウは「大量殺戮」されるようになった。
 そのような殺戮行為は20世紀中盤には停められたが、象牙目当ての密猟は後を絶たず、ついに1989年に象牙の輸出入が国際的に禁止されることで、絶滅寸前まで数の減少していたアフリカゾウはようやく、その数を増加に転じることになった。
 一方、象牙アフリカゾウに比べて大きくなかったことから、象牙目当ての猟の対象にはならなかったアジアゾウだが、棲息地域の開発が進むことでその活動が人間の脅威ともなり、駆除の対象にもされるようになっている。ここには今の日本の「熊問題」とも重なる問題があるように思える。

 巻末の付録的な「人と象、その交流をめぐる考察」には、古代から現代にいたるさまざまな文献資料に書かれた神話、ゾウの観察記、人間とゾウとの交流(争い)、そして象牙の流通についてのことがらを読むことができる。

 アジアゾウは賢いがゆえに強引に家畜にされたり戦場に引っ張り出されたり、人間に虐待されたわけだし、アフリカゾウは大量虐殺の犠牲になってきた。ゾウは妊娠期間も長く、子供が生まれたあとはしばらく(2年ほどは)子育てをするため、その数は人間のハンティングによっても絶滅の危機におちいることになる。20世紀に人間が「狩りをやめてゾウを守らなければいけない」としなければ、おそらく今頃はアフリカゾウは絶滅していただろうという。
 ゾウは幸福からほど遠い逆境に人間のせいで追いやられても、その従順さというか「あきらめて運命を受け入れてしまう」という生き方を選んでいるように思え、動物園で飼育されるゾウを思っても「虐待」なのではないかと思ってしまう。
 「地球の陸上でいちばん大きな動物」というせいか、どこの動物園もゾウを飼育したがるようだけれども、ゾウにとっては不幸なことでしかないように思える。じっさい、動物園での繁殖例は自然下より少なく、成長過程での死も多いようだ。
 例えば「カモノハシ」などはオーストラリアが海外に出すことを禁じ、オーストラリア以外では世界中どこもカモノハシを見ることはできない。同じように、ゾウも「動物園での飼育を禁止する」とかやってもいいように思う。そんなことを、この本を読んで考えるのだった。