ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『殺しの烙印』(1967) 鈴木清純:監督

 主人公の殺し屋花田(宍戸錠)が「オレは米の炊ける匂いが好きだ!」というので有名な作品(だと思う)。じっさい、米の炊き上がった炊飯器の蓋を開け、その匂いに恍惚となるシーンもある。
 脚本は「具流八郎」ということだけれども、これは脚本家ら8人によるグループ8人のことで、その8人には鈴木清純、大和屋竺田中陽造曽根中生らの名前があったようだ。この作品ではまずは大和屋竺が「殺し屋の世界ランキング」というアイディアから前半を書き、他のメンバーがそれに書き加えていったらしい。
 けっきょく、この『殺しの烙印』が日活社内で問題視され鈴木清純監督の解雇騒動となってしまったため、この「具流八郎」名義の作品で製作されたのはコレ1本きりになってしまった(他に『続・けんかえれじい』や『続・殺しの烙印』などがじっさいに書かれていたらしい)。

 とにかくは殺し屋らにランキング順位がつけられている世界で、その「ナンバー3」であった花田が次々とランク上位者を消して行き、ついには「ナンバー1」の地位をめぐってそのときのナンバー1(南原宏治)としのぎを削るという話。まあ「ハードボイルド作品」といっていいのだろうけれども、「そんな殺し屋に殺しを依頼するのは誰か?」とかの背景、そして「リアリティ」などは、もうどうでもいいという作品である。
 そんな中で花田が知り合った美沙子(真理アンヌ)という謎の女性を花田が愛するようになり、花田は美沙子も自分の命を狙っているのかと疑う。じっさいに美沙子も殺し屋だったようだが、互いに愛し合ったせいで互いに殺すことが出来ない。それで美沙子は依頼人に囚われてしまう。
 面白いのはそんな「殺し屋」の花田だが、ちゃんと妻がいて毎日殺しのあとは妻が待つ家へと戻るのである(しかしながら妻は花田を裏切り、花田の命を狙うのであった)。
 そして、ナンバー1以外の殺し屋を皆(美沙子以外)殺してしまった花田のところに、ナンバー1から「果たし状」のようなメモが届くことになる。

 なんだか、こういう「事件の背景」などは描かない、ただ「殺し」の連鎖などというのは、近年の黒沢清のVシネにも見られるような展開だとも思うし、けっこうスタイリッシュな撮影がまたカッコいい。撮影はのちに『ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』を撮った永塚一栄。室内の構図の決まったショットや手持ちカメラのショットもいいのだが、「これはジャンプカットだね」という大胆な編集もすばらしい。花田の自宅での、その妻とのシーンがわたしにはすばらしかった。

 ラストのナンバー1と花田との対決の場は、深夜のボクシングリングのある無人のホールで、まさに「ナンバー1」の決定戦にふさわしい「場」というか。

 そう、音楽もまたいいのだけれども、作曲は山本直純。テーマ曲の「殺しのブルース」は大和屋竺が歌っている。
 いろんな面で、まさに「カルト」といえる快作~怪作ではあると思った。