ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『皇帝ペンギン ただいま』(2017) リュック・ジャケ:監督

 この作品に先行して、2005年に同じ監督による『皇帝ペンギン』という作品が公開されていて、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞しているという。ただ、そのタイトルは2005年版が「La Marche de l'empereur」(皇帝ペンギンの行進)というもので、この『皇帝ペンギン ただいま』こそ、その原題は「L'empereur」なのである。
 監督は「2005年版では水中撮影が撮れなかった」と語っていたらしいが、その前作を観ていないのでわからないが、前作ではもっとナレーションを多用して、登場するペンギンの「擬人化」が行われていたらしい。

 そういうわけでこの作品はけっこうナレーションも少なめで、ただ画像を見せたいという監督の意志も感じる。特に妙にペンギンらに勝手な名前を付け擬人化することがないのは、わたし的にはいいことだった。
 皇帝ペンギンの、その「子育て」以外の生態についてはそこまで詳しく説明することも見せることもなく、この作品は「皇帝ペンギンの家族のあり方」と「ペンギンの雛のひとり立ち」ということをメインに描いているようだ。
 そういう「説明描写がない」ということでは、ペンギンたちが海に入る「海中シーン」はあるけれども、ペンギンが魚を捕える「食事シーン」というものは見ることはできなかった(しかし、そういうことがこの作品の「欠点」というのではないだろう)。

 しかし「皇帝ペンギン」の産卵、子育てというのは他の鳥類、動物にない独特なもので、その独特さが自然とこの作品の「ドラマ」になっている印象だ。
 メスが産卵すると、すぐにオスがその卵を引き継いで脚の間で温め、エネルギーを消費して空腹だったメスはしばらく海へ行って腹いっぱい食事するのだ。オスは何ヶ月も何も食べないで抱卵し、そのうちに卵は孵化して雛が育ち始める。ようやく戻ってきたメスと交代し、こんどはオスが海でたっぷりと食事をする番だ。
 この映画はそのオスが満腹になって海から戻ってきて、自分の子を探すところから始まり(これが日本タイトルの「ただいま」ということなのだろう)、そこから時間をさかのぼってオスとメスとの出会いなどが描かれる。

 オスが戻ってくるとしばらくしてメスはオスと雛から離れて行き、もう二度といっしょになることはない。さらに、オスもしばらくは雛の成長を助けて見守っているが、雛がある程度成長するとこれまた雛と別れて行ってしまう。
 残された雛は雛同士で群れをつくり、海へと向かう行進を行う(雛はまだ海を見たこともなければ泳いだこともなく、ましてや自力でエサを獲ったこともない)。

 海辺に着いた雛の群れは、その海辺にとどまって2~3日「どうしようか」と逡巡し、あげくにそれぞれ海に飛び込んで行くのだ(飛び込むというよりも「すべって落ちてしまう」みたいな雛もいるけれども)。そこから、雛たちの新しい暮らしが始まるのだ。

 やはりドローンを使った撮影の映像が美しく、監督が前作から12年を経てまた「皇帝ペンギン」を撮ったというのも、ドローンを使った撮影技術が発達したこともあるのだろう。
 撮影で切り取られる構図というのも、今まで観たBBCとかのドキュメンタリーとはテイストが違っていて、撮られているペンギンの個体のパーソナリティのようなものをことさら際立たせることもなく、この作品は「種」としての「皇帝ペンギン」の子育てとその子供の自立とを描いている、という姿勢があるようには思った。
 また、ズームで撮られた皇帝ペンギンの表皮の、肌理(きめ)の細かい美しさ、そして雛の抜けて行く羽毛なども印象に残るのだった。
 しかし、冒頭に登場したオスの皇帝ペンギンのことを、ナレーションでは「40歳」などといっていたが、どうやってその年齢を知ったのか、そんな長寿の皇帝ペンギンはいるのか(調べたところでは皇帝ペンギンの寿命は20~30年ということだった)、という疑問はある。

 それでも、いくら過剰な「擬人化」はしていなくっても、やはりラスト近く、海辺にたどり着いた雛たちが「意を決した」ように海に飛び込んで行く場面には、観ていても「がんばれ! 勇気を出して!」とか、声をかけたくなってしまうのだった。