黒沢清監督は、1992年の『地獄の警備員』以来劇場用映画はしばらく撮らず、いわゆる「Vシネ」を連続して撮ることになる。1994年から1998年までのあいだに、数えてみると13本のVシネを撮っている。このあいだの1997年にあの『CURE』を撮り、一気に「世界の黒沢」にかけ昇ってしまうんだけれども、特に1995年から1996年にかけて、この哀川翔と前田耕陽のダブル主演で『勝手にしやがれ!!』シリーズを6本も撮っている(全体に黒沢清監督のVシネは哀川翔主演の作品が多く、10本もある)。
その第1作のこの作品、脚本は黒沢清と、安井国穂という人物。出演は哀川翔と前田耕陽に加えて、おそらくこのシリーズのレギュラーだろう大杉漣、洞口依子が、主演二人の行きつけのスナックのマスターとスタッフである。
そしてこの回には、七瀬なつみ、菅田俊、國村隼なども出演していた。さいごのスタッフロールを見ると、青山真治が助監督をつとめてもいた。
雄次(哀川翔)と耕作(前田耕陽)は、ほとんどチンピラ同然の稼ぎで生活していたのだが、あるとき田舎の父の手術代3千万円のため、昼は保育園の保育士、夜はキャバクラのホステスをやっている涼子(七瀬なつみ)と知り合い、彼女のために一肌脱ごうとするのである。
そこに、その涼子の父を誤診したとして責任を感じている、松浦という元医師(菅田俊)があらわれて涼子を助けようとするが、彼はまさに貧乏神で、彼が来てからやることなすことうまく行かない。さらにちょっと「天然」な涼子はさらに借金を増やすようなこともしでかす。
行きつけのスナックの洞口依子から「女性でなくては出来ない」という「運び屋」の仕事を紹介してもらうが、その役を担った涼子は、その「ブツ」をちょろまかしてしまうのだ。
組織に涼子と松浦を「人質」に取られ、雄次と耕作は「ブツ」を返しに行くのだが、受け取り役の男(國村隼)は投げ渡された「ブツ」を取りそこね、海に落っことしてしまうのだった‥‥。
とにかくこの作品、出だしから快調で、雄次と耕作が谷中界隈をチャリンコで駆け抜ける。ファーストシーンからして、「ココ、見たことあるなあ」と思ったら、桜木町のあたりの街並みだったし、そのあとも谷中の裏道の坂道を下ったり、なんと「夕焼けだんだん」をチャリンコで駆け下りたりする。爽快である。
カメラワークも全篇ばっちりで、たっぷり目を楽しませてくれる。ストーリーも「アクション的展開」と「コミカルな展開」とのブレンドが小気味よく、まあどっちかといえば「コメディー寄り」の作品ではあるが、「そりゃあないだろ」という展開も、楽しく受け入れさせてくれるのだ。
まだまだ残りは5本。もっと楽しませてくれることを期待している。