ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『アメリカン・スナイパー』(2014) クリス・カイル:原作 クリント・イーストウッド:監督

 イラク戦争に4度従軍し、スナイパー(狙撃兵)として伝説的な戦果をあげた実在の人物、クリス・カイルの半生を、クリス自身が書いた自伝をもとに映画化したもの。
 映画製作開始時に存命だったクリス・カイルに、いろいろとアドヴァイスを授かっていたのだったが、クリス・カイルは2013年2月に、PTSDを患う元海兵隊員の社会復帰訓練を実施中、その元海兵隊員に射殺されたのだった。
 したがって、この映画のラストのクリスの葬儀への車列、追悼式の映像・写真は、実際の映像だろうと思われる。

 昨日観た『リチャード・ジュエル』でも、主人公のリチャードは「人々を助けたい」との正義感を心の奥に持った人物だったけれども、この『アメリカン・スナイパー』の主人公、クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)もまた、その行動原理には<9.11>の惨劇を見て「国民を守りたい」と思ったことにある。

 映画のクリスは一見「強いアメリカ」を体現したような存在で、彼の「レジェント」としての戦果の(4度の従軍で160人のアルカイダ兵を射殺したという)描写は、まさに「ヒーロー」を描くかのような演出でもあり、アメリカのイラク攻撃を賛美するものではないのかという批判も寄せられたという。
 イラクでの戦闘の描写は一面リアルで残酷ではあるけれども、この映画では「ムスタファ」という、クリスの強力ライヴァル的な敵を描き(ムスタファもクリスと同じように妻も子供もいることが描かれる)、一面で「クリスvs.ムスタファ」という娯楽性を持たせていると思う。
 それまで「リアリズム」に徹した戦場の描写が、クリスが1920メートルの距離からムスタファに向けて撃った狙撃銃の弾丸が飛んで行くさまが、コマ落とし的にスローモーションで描かれるシーンなど、まさに「ヒーロー映画」の演出でもあろう。

 しかし一方でこの映画は、PTSDに陥る一兵士の戦場での精神状態を迫真的に描いた作品ともみられるわけで、クリスの精神を圧迫する戦争の残虐さをこそみるべきではないかと思う。
 映画でも、クリスが赴任してさいしょに狙撃するのは手榴弾を投げようとした子供と女性であり(これはクリス・カイルの自伝でもそう書かれているとのこと)、のちに、クリスが狙撃して倒した兵士の持っていた対戦車ライフルを、十歳ぐらいの子供が拾うシーンがあり、クリスはファインダーを覗いて狙いを子供に合わせながらも「捨てるんだ!」とつぶやくシーンは、まさにクリスの精神の抑圧されるシーンとして、わたしにはクライマックスだった。
 4回の従軍から帰国するたびに病的に変化しているクリスの精神状態は、クリスの妻のタヤ(シエナ・ミラー)の視点を描くことでより明確に観客に伝わっただろう。
 ラストに知らされるクリスの死も、その犯人がやはりPTSDを患う元海兵隊員だったということから、この作品を「反戦映画」と捉えることも可能だろうと思う。

 演出的にはクリスが入隊の訓練を受けるシーンだとか、イラクの戦場が市街地だったりすることから、あの『フルメタル・ジャケット』を思い出させられたりしたが、戦場の描写はこの映画の方がインパクトあったかもしれない。

 クリスの妻になるタヤを演じる女優さん、「きれいな人だなあ」なんて思いながら観ていたのだけれども、シエナ・ミラーなのだった。もうしばらく姿を見ていなかったのですっかり忘れていたけれども、イーディ・セジウィックを描いた映画『ファクトリー・ガール』で、イーディを演じた女優さんだった。