ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『アメリカン・スナイパー』(2014) クリント・イーストウッド:監督

 Wikipedia でみるとこの作品、戦争映画として『プライベート・ライアン』の興行収入を超えた作品になったらしい。おそらくは「イラク戦争」に対するアメリカの立ち位置を描くというよりも、イラク戦争に参加したアメリカ人ら個人の精神的な問題を描いているあたりに共感を得たのではないかと思う。そういう意味で、この映画の立ち位置として、アメリカの戦った「イラク戦争」への判断はニュートラルなものになっていただろう。

 この作品の企画の時点では主人公のクリス・カイルはまだ存命中で、この映画化にも深く関わっていたらしいのだけれども、映画に描かれたようにクリス・カイルは退役軍人に射殺されてしまうわけで、ここで一気に映画は「戦争によるPTSD」の問題が、それまで以上にクロースアップされた感がある。おそらくはクリス・カイルの殺害というのはアメリカでも大ニュースとして報道されたことだろうし、そのことが興行収入にも如実にあらわれたことだろうと思う。

 前に書いたように、『プライベート・ライアン』という映画は、第二次世界大戦アメリカがいかにその理想とする精神を守ったか、そのためにどんな犠牲を払ったかということを描くような作品だったと思ったわけだけれども、この「アメリカン・スナイパー」は「戦争に参加した人間の精神というものは、そのためにどのような変化、変質を体験することになるのか」ということまでを描いた作品であり、それは主人公がやはり主人公と同じ退役軍人によって殺害されたことともリンクするものであり、この映画の視点が普遍的なことであったということをもあらわすものだったのだろう。ここには「アメリカの理想とする精神」は縁がなく、クリス・カイルはそんな「アメリカの理想とする精神」を守って死んだのではない。

 戦争は兵士の精神を蝕んでいくものだし、その中でこの主人公は狙撃の名手としての「伝説」を生きることにこそ、生きがいを感じるようになってしまうのだろうか。まさに今、戦場で銃撃戦の行なわれているさなかに、主人公はアメリカの妻にケータイで連絡を取っている。ここがそれまでの「戦争」とまるで異なるところで、主人公の日常というものは、その精神の中でずれ込んで行くことだろう。あまりにもわたしたちの考える「日常」から乖離しているのだけれども、それが彼の日常なのだ。人はこのようなところに身を置くべきではない。
 たとえ映画として、その銃撃戦の中にカタルシスを感じ取ってしまうとしても、強くそう思わせられる作品だったと思う。

 クリス・カイルを演じるのはブラッドリー・クーパーで、先日(といってもけっこう以前だが)観た『ナイトメア・アリー』の主演でもあったし、このところになってわたしの意識にのぼるようになっている役者さんで、この映画を観直したのも、ブラッドリー・クーパーが出ていたから。
 彼が監督・主演した『スタア誕生』のリメイク、『アリー/スター誕生』はとっても評判がいいみたいで、今度観てみようと思う。
 それと、クリス・カイル夫人のタヤを演じているのがシエナ・ミラーという女優さん。なんか、この人の名は聞きおぼえがあるなと思って調べたら、ずいぶん前に観た『ファクトリー・ガール』という作品で、あのイーディ・セジウィックを演じておられたのだった。もうその映画のことはこれっぽっちも記憶していないが。

 (ちょっと精神不調で書く時間も取れないので、6年前にこの映画を観たときに書いた「感想」に加筆・編集したものを掲載しました。)