ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『男の敵』(1935) ジョン・フォード:監督

男の敵 [DVD]

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  • ヴィクター・マクラグレン
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 原題は「The Informer」で、つまり「密告者」という意味。ジョン・フォード監督は「西部劇」と並行して、自らのルーツであるアイルランドを舞台にした作品もけっこう撮られているが、この『男の敵』もまた、アイルランド内戦時のダブリンを舞台にした作品で、ジョン・フォード監督はこの作品でさいしょのアカデミー監督賞を受賞されている。
 主人公である「密告者」のジポを演じているのは、当時けっこうジョン・フォードの作品に出演していたヴィクター・マクラグレンで、やはりこの作品でアカデミー主演男優賞を受賞。

 そのジポは「大男総身に知恵は回りかね」というタイプの男で、深く考えることなくそのときの感情だけで行動してしまうところがあるのだが、ヴィクター・マクラグレンはそのあたりをガッツリと表現されていた。ジポは街角に貼られていたアイルランド独立運動の同志フランキーの賞金付き指名手配のポスターを見て、さらに自分の愛するケイティが街角で客引きしようとするところを見て、「金があればケイティを救える(二人でアメリカへ行くことも考えていた)」と、つい警察に行ってフランキーの居所を知らせて賞金を得てしまうのだ。
 しかし、大金をせしめたジポは真っ先にケイティのところへ行けばいいものを、まずは酒場に立ち寄って皆に酒をおごり、ただいい気になって金を浪費するのである。
 ジポに売られたフランキーは住まいに警察に踏み込まれて射殺されてしまうが、アイルランド独立運動組織では「誰かがフランキーを密告したのだろう」と踏んでいる。グループのメンバーはジポが酒場とかで飲んだくれて浪費しているのを見て、「ジポこそがあやしい」と思い、アジトに彼を呼ぶが、ジポは適当に、仲間の仕立て屋こそが裏切ったなどと言い逃れする。

 ずっと夜だけ、一夜の話で、霧深いダブリンの街の夜の情景が心に残り、その影の描写など、ジョン・フォードの師匠であるF・W・ムルナウの影響を感じさせられる。
 観ていても主人公のジポの「愚かさ」にははがゆい思いもするのだが、同時に悪意のない彼の行動はただ「哀れ」でもある。夜明けと同時に教会で息絶えるジポの魂は、はたして救済されたのだろうか?

 ダブリンの街角で、フィドルの演奏をバックにアイリッシュ・トラッドを歌う少年の姿なども捉えられ、「ダブリンの夜」らしさも演出され、わたしを喜ばせてくれるのだった。