ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016) ジェームズ・ボーエン:原作 ロジャー・スポティスウッド:監督

 原作の「A Street Cat Named Bob」(2010)は、作者ジェームズ・ボーエンが自分の体験を書いた自伝的書物だけれども、イギリスで圧倒的ベストセラーとなり(日本でも翻訳は出ている)、ついにこうして映画化されたのだった。注目すべきは、そのネコのボブ本人(?)がこの映画にもしっかり出演していて、ほとんどのシーンで自分自身を演じているのだ。
 監督のロジャー・スポティスウッドはキャリアの長い、よく知られた監督で、過去にはボンド映画の監督もやっている。

 ストリート・ミュージシャンで、映画の冒頭ではホームレスのジャンキーだった主人公のジェームズが、ソーシャルワーカーの助けで住居を得るけれど、その部屋に迷い込んできたネコと暮らすようになってから運が向いて来るというか、路上でボブと名付けたそのネコとライヴを行うと、ネコの可愛さもあっていちどは人が集まるようになる。しかし他のストリート・ミュージシャンともめ事を起こし、以後街頭での音楽活動を禁止されてしまう。
 周囲の人たちとの関係も構築し、「Big Issue」の販売員などもやり、むかし離婚して以来ジェームズとの関係も険悪になっていた父との関係も修復しようとする(すぐにはうまく行かないが)。
 苦労してドラッグも断ち切ることも出来たし、いつもボブを連れて「Big Issue」を売る姿が人々の目にとまり、そのうちに新聞に取り上げられることにもなり、それは「本の出版」へと繋がって行くのだった。

 よく、ネコやイヌなどといっしょに生活すると人間はポジティヴになるなどというが(わたしもその意見に同意する)、そのことを絵に描いたようなストーリーだろうか。
 例えば、毎日犬を散歩させている人は、その犬をきっかけにして人と結びつくことも出来るのだろう。じっさい、ウチの近くのスーパーの前のベンチは、犬を散歩させている人たちのコミュニティの場みたいになっているわけだし、ひとりで引きこもっている人は犬を飼って散歩させるようになるだけで、何かが変わって来るだろう。
 ネコはなかなかいっしょに散歩など出来ないし、逆に「いつもいっしょにいてあげたい」と思うと、自分が外出することも控えるようになり、かえって「引きこもり」になってしまうかもしれない(わたしの場合がこういう感じ)。

 そういう意味でこの主人公のジェームズは、いっしょに外に出かけられるボブというネコに出会ったことは、まさに幸運なことだっただろう。肩に乗っけられるなんてうらやましい。
 映画でははっきりとは言わないが、彼がツラい思いをしてもドラッグ依存を克服出来たということも、いっしょに生活するボブという存在が「支え」になってくれたことだろう。
 このように、一匹のネコやイヌとの出会いが、その人を変えてしまえることだろう(わたしだってニェネントと出会って‥‥)。

 その、じっさいのボブと共にの「街頭撮影」でもボブは落ち着いて平気な様子をしているし、ここでも「ボブというネコ」がこの映画を助けていると思う。当然「主演ニャン優賞」に値するだろう。

 冒頭の、「最悪」のときからのジェームズの歩みを、さまざまな起伏、いろいろな人たちとの出会いを「ボブ」を媒介に描き、とにかくは「心温まる」映画にはなっていたと思う。