ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『昆虫怪獣の襲来』(1957) ケネス・G・クレイン:監督

 原題は「Monster from Green Hell」。観終わったあと日本のWikipediaにはこの映画の項目はなかったので、アチラのWikipediaを閲覧してみた。それによるとこの映画、アメリカでは日本の『獣人雪男』(円谷英二:特撮 本多猪四郎:監督)との二本立てで公開されたのだという。典型的な1950年代の「B級映画」という感じ。

 将来的に有人宇宙ロケットを打ち上げる準備で、「宇宙放射線が動物にどのような影響を与えるか」の実験としていろいろな動物がロケットで打ち上げられて回収される。ところがスズメバチを乗せたロケットが回収されず、どうやらアフリカ西部に墜落したらしいとわかる。登場人物が地球儀で指さしたのは、カメルーンあたりのようだった。
 するとしばらくして、そのアフリカの<緑の地獄>と呼ばれる地域に怪物が出現し、そのあたりの動物が逃げ出し、住民に死者も出ているという新聞記事をそのロケット開発技師が読み、「これはウチらのロケットの墜落と関係があるのでは?」ということになり、技師2人は確認のためアフリカへ行くのだった。
 かんたんに言えばその「怪物」はもちろん、ロケットに搭載されていたスズメバチで、おそらく宇宙放射線の影響で「巨大化」したものであった。
 長い長い、一ヶ月に及ぶ旅の末にようやく現地に到着した2人は、そこで医療活動をしていたアメリカ人医師も行方不明になっていることを知る。ちょうど医師と同行して「怪物」のうわさの真偽を確かめに行った現地人の医師の助手が帰還し、医師の死を告げる。彼が持ち帰った医師の死体に刺さっていた大きな「針」から、やはり「怪物」は巨大化したスズメバチだと推測された。
 技師2人は残された医師の娘のローナと、技師の案内人、戻って来た助手、そして村の男たちとで武器を持ち、そのスズメバチを退治しに行く。途中の集落の住民が皆死んでいるのを見て、村の男たちは皆逃げ帰り、一行は5人だけになる。
 とにかくはその「巨大スズメバチ」を発見するのだが、繁殖して何匹にも増えていたのだ。一行が持って来た爆薬を全部スズメバチに投げつけるのだが、映画の映像では果たしてスズメバチをやっつけたのかダメだったのか、判然としない。
 よくわからないが「スズメバチ撲滅作戦」は失敗してしまったようだったが、そのとき近くの火山が大噴火を起こし、巨大スズメバチらは流れ出した溶岩でみ~んな死んでしまうのだった。主人公らは「我々にはムリだった事を火山がやってくれた」と、神に祈りをささげるのだった。おしまい。

 ‥‥あれ? 火山噴火の溶岩で怪獣が焼け死んでしまうって、そういう映画昨日も観たような記憶が?
 まず「巨大スズメバチ」の造形だけれども、たいていはその巨大な頭部しか出て来ない。その複眼の眼の造形など、けっこう力入ってるなあという造りに思えるけれども、これは言ってみれば日本の怪獣映画『空の大怪獣 ラドン』に出て来る、巨大なトンボの幼虫の「メガヌロン」にけっこう似ている。『ラドン』の公開はこの『昆虫怪獣の襲来』公開の1年前だから、この作品のスタッフが『ラドン』を見ていて参考にした、という可能性はないでもない。このスズメバチ、たま~に腹部あたりまで写ったりするが、そのときに見える羽根がちっちゃくって、これではとても空を飛ぶことは出来ないだろう。せめて一度でも全身を見せてくれればわたしも喜んだだろうに。

 それでこの作品、アメリカからの技師が現地に到着するまでの「旅」が異様に長い。「いったいこの映画の主題は何なんだ?」ってくらいに、アフリカ旅行がしつっこい。この技師らの一行はものすごく大人数で、2~30人はいそうなのだけれども、彼らがアフリカの草原を延々と歩いて行く映像が続く。そうして水がなくなったり、現地の部族に襲われて闘ったりとするのだが、この現地部族との闘争シーンがすごくって、部族の構成員は2~300人以上はいそうだ。こ~んな「B級映画」で、そんなにエキストラを雇えるわけがない。また、ライオンやゾウなど、アフリカの動物もいっぱい登場するのだが。
 この件はなんと! Wikipediaによると、1939年に公開された「Stanley and Livingstone」という冒険映画のフィルムを、そのまんま使用しているとのことだった。「Stanley and Livingstone」という映画は「B級」などではない、スペンサー・トレイシーも主演する「まどもな」作品で、評価も高い作品だ。

 つまりこの『昆虫怪獣の襲来』での、技師らが現地へ向かって旅をする場面の多くはその映画からのもので、この映画はそのあたりで矛盾をきたさないように、出演者らは「Stanley and Livingstone」と同じ服装を身に着け、流用した映像は皆出演者が後ろ向きだったり、顔の判別が出来ないシーンを使用しているようだ。

 ちょっともう、この『昆虫怪獣の襲来』の出来映えはどうでも良くなってしまい、この時代そうやって、過去の作品のフィルムを使ってしまうのは「B級映画」の世界ではよくあることだったのだろうか?という疑問ばかりが頭を占めてしまう。
 仮に著作権料とか支払って、法的には何ら問題はないとしても、そういうことをやってしまう精神がわたしにはよくわからない。これが1950年代までのアメリカ映画の世界なのか。

 ところで、この作品にただ一人登場する女性であるローナを演じたバーバラ・ターナーという女優さん、主にテレビで活躍された女優さんで、脚本家でもあったようだが、あのヴィック・モローの夫人であり、つまりジェニファー・ジェイソン・リーのお母さんなのだった。