ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『放射能X』(1954) ゴードン・ダグラス:監督

 けっこう昨日観た『原子怪獣現わる』と共通したところもあるし、何よりも『昆虫怪獣の襲来』はさらに似ている。これらの作品は皆、核実験の影響により怪獣が生まれる、またはよみがえるという共通する設定があったが、この『放射能X』ではさいしょに怪獣のあらわれるのは北極圏やアフリカではなく、いきなりアメリカ国内である。それはもちろん、アメリカが自国内、ネヴァダ砂漠で核実験を行っていたことの反映である。ちなみに、そのネヴァダ核実験場では1951年から1992年にかけて、なんと928回の核実験が行われたという。

 さて、この映画に登場する「怪獣」は、巨大化した「アリ」である(ここは『昆虫怪獣の襲来』の「ハチ」に影響を与えていることだろう。大きさも体長4~5メートルで『昆虫怪獣の襲来』のハチと似たサイズだ)。アリなもんだから砂糖が大好きで、人間の貯えた砂糖を狙う。人間をも襲うが、そのときには頭の強力な大顎を使うとか、お尻の針から蟻酸で攻撃するとかする。ただこの巨大アリ、かなり銃撃すれば倒すことも出来るし、火炎放射器で退治はできるようである。
 始末が悪いのは女王アリを中心とした一団は、新しく生まれた女王アリが新しい巣をつくることで増加して行くことで、その新しい女王アリは産まれた巣から数匹のオスのアリと共に羽根で飛んで、新しい巣をつくるのだ。つまりひとつの巨大アリの巣を全滅させても、その巣から女王アリが飛び立って新しい巣をつくり、その巣で産卵されればアウトなのである。

 警官のベンは、ニューメキシコの砂漠地帯を同僚とパトロールしていて、破壊されたキャンピングカーや荒らされた雑貨店を見つける。キャンピングカーの奥には記憶喪失なのか何を聞いても答えない少女がいて、近くに奇怪な大きな足跡が残されていた。雑貨店では店主が死体で発見された。
 雑貨店主の死体からは20人分の致死量の蟻酸が見つかり、そのことから農務省の昆虫専門家のハロルド博士、その娘のパトリシア博士が事件解明に協力することになる。
 それで、何を聞いても答えなかった少女に蟻酸の匂いを嗅がせると、少女は悲鳴を上げて「Them! Them!」と叫ぶのだ(この「Them」というのが、この映画の原題)。

 もういちど、ベンら警官とハロルド親子がキャンピングカーあたりに戻ると、「キリキリキリ」というような甲高い音が聞こえて来て、一行の前に巨大なアリが姿をあらわす。これで事件の全容は明らかになった。
 警官らは砂漠の中に巨大アリの巣らしきものを発見。このケースではシアンガスを使って巣の中のアリたちを殲滅するのだが、巣の中を探索すると、どうやらすでに新しい女王バチが巣立っていたらしい。その新しい女王バチの行き先を探り、卵を産む前に殲滅しなければならないのだ!
 捜査網を拡げると、二人の子どもを連れて遊びに出ていた父親がおそらく巨大アリに襲われ、父親の死体は発見されるのだが、二人の子どもが行方不明だった。現場近くには内部が迷路のような下水道の入り口があり、博士はどうやらこの下水道を新しい「巣」にしたのではないかと推測する。一気に攻撃したいところだが、二人の子どもの行方がわからないのでベンらは下水道の中に探索に入るのだった。

 けっこうドラマのつくりとしては「どこへ逃げたかわからない凶悪犯」を警官が捜索して追う、というようなモノの応用のようにも思えたが、相手が「巨大アリ」ということだし、その姿を発見するとちょっとびっくり。アリが巣の外で人間の骨をかじってるような描写もあるけれども、たいていはアリの前半身、とりわけ頭部だけという描写が多い(これも『昆虫怪獣の襲来』に引き継がれているか)。しかし、一瞬全身が写る場面もある。
 観ていても、思ったよりも殲滅の容易い「巨大アリ」だったが(このあたり「リアル」)、すぐにやっつけてしまえばいいようなときにも博士は「待て待て、さらに新しい女王バチが生まれてないかどうか、確認してからだ」という。ぜ~んぶやっつけてしまったあとでチェックできないのかとは思うが、まあしょうがない。そういうのでは博士の熱弁もあり、「アリの生態のお勉強」というおまけもある映画だったか。
 ちなみに、この映画でも『原子怪獣現わる』のように動物学専門の博士といっしょに女性が登場するのだが(この映画では「博士の娘」)、特にロマンスが芽生えるというわけでもなかった。主人公かと思えたベンは最後のアリの巣穴探索で、奥に隠れていた二人の子どもを救出したときに殉職したみたいだった。