ビートルズの歴史を、その「ライヴ・コンサート」の残された映像から構成したフィルム。そんな「ライヴツアーこそが最大のバンドの収入源だった」というような言葉もあったけれども、(特に前半)彼らが素晴らしいライヴ・バンドだったのだということを、今さらながらに思い知らされた(ジョンとポールをメインとしながらも、きちんとジョージのリード・ヴォーカルの曲、リンゴのヴォーカルの曲も入れてくれていたのがうれしい)。
フィルムは1963年11月の、マンチェスターでのライヴ映像から始まるのだけれども、まあわたしもビートルズは中学生の頃から大好きだったとはいえ、こんなライヴ映像が残っていたのは知らなかった。というか、このフィルムの中のライヴで、今までに観たことのあるものはほとんどない。まあわたしもそこまでにコアなファンではなかった、ということに過ぎないだろうけれども。
しかしこの冒頭のライヴ(「She Loves You」を演っていた)は素晴らしい。おそらくは素材はモノクロ映像だったものを着色加工したものだと思うけれども、そういう「色彩が鮮やかだ」ということではなく、撮影カメラが1台ではなくって少なくとも3台はステージを追っている(バックステージから撮っているカメラもあるし)。もう、撮影する側にも「熱」がある。
このライヴの撮影された1963年11月というのは、まさにイギリスでビートルズが「大ブレイク」した直後の時期であり、映像を観ていても、ビートルズの演奏の熱気と、観客の熱気とのまさに「競合」という感じがする(そして、撮影する側の熱気も!)。強烈だ。
この映画のスタート時点で、バンドに最後に加入したリンゴ・スターも「正式メンバー」ではあるし、このときにはもう、マネージャーのブライアン・エプスタイン、レコーディング・エンジニアのジョージ・マーティンという、「最高のユニット」は出来上がっていたわけだ(映画では、ブライアン・エプスタインやジョージ・マーティンがフィーチャーされるのは、もうちょっとあとになってからだったが)。
このあとに、1964年2月のビートルズのアメリカ・デビュー、「エド・サリヴァン・ショー」への出演へとつづいて行くけれども、映画では「ライヴ・ツアー」をメインに、レコーディング作業はほとんど取り上げられないなか、ビートルズの出演映画『A Hard Day's Night』、『HELP!』についてはけっこう取り上げられ、観ていても、この『HELP!』の撮影時こそが、ビートルズのターニングポイントになったわけだろうという印象を持つ。
まあこのことは、わたしがこの作品を観る前から思っていたことで、アルバム『HELP!』は、わたしにとってはビートルズの最悪の「愚作」という気もちもあったし、主題歌の『HELP!』にしても、あの曲はリアルにジョン・レノンの「魂の訴え」だったのだろうと思う。
1966年には「日本公演」も行われ、この映画でも日本武道館を使った公演に抗議する右翼団体の映像もフィーチャーされるわけだ。
しかし、だんだんに肥大化する彼らの「ライヴ」、当時はステージにミュージシャン用の「モニター・スピーカー」もなく、このあとのスタジアムでのライヴでも、スピーカーは「100W」だったというから恐れ入る。
これはこの映画でちょくせつは言及されないことだけれども、その「日本公演」は海外のライヴに比べて日本の観客は静かだったようで、ジョージ・ハリソンはあとでその武道館公演の録音を聞き、あまりの自分の歌と演奏の「お粗末さ」にがく然としたといい、当時のライヴ連続のスケジュールへの疑念へとつながったという(わたし、このときの「武道館公演」の映像と音は聞いたけれども、確かに、とりわけジョージの歌は「ひどい」と思ったのだった)。
まあそういうこともあって、ビートルズは「ライヴ・バンド」からそれまで稀有だった「(実験的)レコーディング・バンド」へと移行して行き、それが一面で「ロック」という音楽ジャンルのとてつもない発展に影響を与えたわけだけれども、例えばその時代、もっともっとライヴでのPAシステムとかが発展していて、ビートルズ現役のとき(1966~1967とか)に「ウッドストック」並みのライヴが実現できていたら、そのまんま、ビートルズは「偉大なライヴ・バンド」と発展していたかもしれないと思ったりする。
例えば、彼らの『Revolver』での楽曲(特にこのときのジョンの作品)など、まったく「ライヴ」としては演奏されていないわけだけれども、聞きたかったなあ、などとは思う。
そういうわけでとにかくは、「1960年代」のロックの発展と、その「ライヴ」との関係とか、ある意味「早すぎたバンド」ビートルズについて、いろいろと思わせられた映画作品ではあった。そして、「冗長」に陥らず、この長さ(109分?)で収めたこともうれしいところ。