ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ショック集団』(1963) サミュエル・フラー:脚本・監督

ショック集団 [DVD]

ショック集団 [DVD]

  • 発売日: 2006/12/21
  • メディア: DVD

 サミュエル・フラー監督。あのゴダールの『気狂いピエロ』に登場し、「映画とは戦場のようなものだ」と語った監督としてわたしの記憶には残っているのだけれども、実は彼の作品を観たという記憶がない。ひょっとしたら遺作の『ストリート・オブ・ノー・リターン』は公開当時映画館で観ているのではないかという気もするけれども、もちろんまったく、断片たりと記憶してはいない。そんなサミュエル・フラー監督の作品が今、「GYAO!」の無料配信作品で3本も観ることができる。この作品と『チャイナ・ゲイト』、そして『裸のキッス』とである。残りの2本も、じきに観るつもりである。

 この『ショック集団』の原題は「Shock Corridor」。ちょっと邦題はイメージがちがう。この映画、精神病院内で起きた殺人事件の真相を追うため、ジョニーという新聞記者が自ら患者を装って病院に潜入するというものである。まあそういう設定を聞いただけで、いったいどうなってしまうか想像がついてしまうけれども、この映画はそれだけのものではない。

 ジョニーは精神を病んだフリをして、病棟内の患者から情報を聞き出そうとするわけだが、その中で彼もまた病院職員、医師らからは患者と見られてもいるし、ジョニー自身も「偽装」のためにそのようにふるまうわけで、結果としてジョニーも「電気ショック療法」を強制的に処置されもする。
 しかし、そんな努力の甲斐あって、ジョニーは3人の患者から重要な情報を聞き出すことに成功はする。さいごには看護人であった犯人を突き止め、乱闘の末取り押さえるわけだ(DVDのジャケットに女性たちの「狂乱」のさまが映されているけれども、これはジョニーがついつい、女性患者棟のドアの中に入ってしまったあとでの「狂乱」シーン)。

 以上がストーリーだけれども、この映画での見どころはそんなストーリーにはなく、ジョニーが出会う3人の証言者の人物像にある。
 さいしょの男は、朝鮮戦争に出征していたのだが敵の捕虜になる。捕虜交換で帰国するが、戦争体験と、捕虜として帰国したことへの周囲の非難から発狂、自分を南北戦争の南軍の将軍のつもりでいるのである。
 次の男は南部出身のアフリカ系の男で、南部で初めてアフリカ系人間として大学に入学する。しかし人種差別に耐えられず発狂、今では自分のことをK・K・Kの一員だと思っている。
 もうひとりはノーベル賞をも受賞した物理学者だったのだが、原子爆弾の開発にかかわってしまい、その罪悪感に耐えられずに6歳の幼児に退行してしまっている。
 つまり、この3人はまさに、その時代のアメリカの恥部を体験した人たちなのである。そしてこの映画は、まずはその3人を通じて「アメリカ」を告発することになり、さらには精神病院内での患者の非人間的な取り扱いをも告発するものではないだろうか。

 映画のラストで、ジョニーは執筆した「スクープ記事」のおかげでピューリッツァー賞を受賞したことが観客にも知らされるけれども、想像した通り、彼自身はじっさいに精神を病んでしまい、自らが潜入した病院の、リアルな患者となってしまうのであった。

 この時代の精神疾患の療法はやたらと「電気ショック療法」が用いられたわけで、わたしはあのルー・リードが若い頃、「同性愛的傾向」の治療のために「電気ショック療法」を受けさせられたことを知っている。
 まあこの時代に限らず、歴史の上で精神疾患患者への対処とは、いま聞くと信じられないような話ばかりなのだけれども。

 演出はいわゆる「低予算B級映画」の路線に沿ったようなものではあるけれども、まずは「異常な状況の提示」として、今なおパワフルなものだと思う。そして、冒頭に主人公ジョニーが病院に潜入するために「精神疾患」のフリをする練習場面の、そのカット割り、カメラ位置、編集など、「映画のお手本」のような見事なものだとわたしは思ったのだった。