ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『カフェ・パニック』ロラン・トポル(ローラン・トポール):著 小林茂:訳

 名作アニメ『ファンタスティック・プラネット』の脚本・原画の作者、アニメ『かたつむり』もひとりでつくっちゃったローラン・トポールによる、ブラックでナンセンスな短篇集。ちょこっとトポールによる挿画も入ってる。

 「わたし」は、飲み友達の《ぐいと飲め》、《飲みつづけ》に連れられてその「カフェ・パニック」に通うようになり、そこに集まるさまざまな客のさまざまな話に耳を傾け、この本にしたというわけ。途中で「カフェ・パニック」の給仕の《はいただいま》が店をやめてしまって、店が面白くなくなり他の店にも足をのばすのだけれども、けっきょくさいごにはまた「カフェ・パニック」に通うようになる。
 まあたしかに飲み屋の常連になるということは他の常連さんらの話を聞くことでもあり、そうやって飲んでいる酒が美味くなるということでもあるだろう。そういう話の語られる背後に、「カフェ・パニック」という店のたたずまいがなんとなく、少しずつ見えてくるような気分になれば、しめたモノである。しかしまあ、そもそもは「飲み屋でのグダ話」なのではある。そのグダ話の面白いことよ!

 その客らの話は2ページほどの「小話」もあるけれども、まあ長くても10ページに満たない全38話。「それはいかにもナンセンス」という話から、「ひょっとしたら実際にあった話かも?(ほんとうに実話をもとにしたものも含まれているらしい)」というもの、怪奇譚、ブラックな味わいのものまでさまざま。

 例えば《ファスナー》という男の話、彼が愛した妻が死んでしまうのだが、そのあとに妻の双子の妹というのが押し入ってきて一緒に暮らし始める。ところがその妹は死んだ妻とは正反対の性悪女で、たまりかねた《ファスナー》はその妹を殺して地下室の石炭の下に埋めてしまう。その《ファスナー》のところへ、こんどは妹の恋人だったという男がやって来る。「女はもうここにはいないよ」というと男は嘆くのだが、《ファスナー》は「お互いにいなくなった自分の愛する女の話をして慰め合おう」といい、ふたりは仲良くいっしょに暮らすことになってしまう。ところがある夜、酔っ払ってしまった《ファスナー》は、ついつい自分が妹を殺したことを男に話してしまう。話を聞いた男は地下室で首を吊って自殺してしまうのだ。(この話がいちばん気に入ったので、ついついだいたいストーリーを書いてしまった)

 例えば映画『サンセット大通り』を思わせる、過去のスター女優と彼女をカムバックさせようとする映画監督の話だとか、銀河系の宇宙人が総参加する「ミス・ユニヴァース(宇宙)」の審査の話だとか、書いていたらキリがないがとにかく、ヴァラエティに富んだ「変な話」がてんこ盛り。
 ベッドの枕元にでも置いて、また気が向いたらピラッと手に取って開いてみて、開いたところを読んでみたい、そんな気にさせられる楽しい本だった。