ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ:著 鼓直:訳

 海外文学で一大ブームとなった「ラテンアメリカ文学」。そのさまざまな作品の翻訳を一手に引き受けられ、ブームの影の立役者であられたのが去年亡くなられた鼓直氏で、その鼓氏の、「これは<名訳>だろう」との誉れ高いのがこのホセ・ドノソの『夜のみだらな鳥』。もう、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』と並んで、「ラテンアメリカ文学といえばコレよ!」といわれる名作である。
 わたしが今回読んだのは集英社版「世界の文学」によるもので、実は古本屋で300円でゲットしたものだ。長いこと絶版になっていたのが、2年ほど前に別の出版社から復刻再刊されたらしい(高いのだ)。

 さて、わたしはとりあえず通して読んだわけだけれども、この本は一度読んで了解できるたぐいのモノではないだろう。ものすごく記憶のいい人ならば「ああ、これは前に出てきたあのことが絡んでいるのか」とか了解しながら読み進めることもできるだろうけれども、そもそも、この地の文がわかりにくいというか、語り手が語る話の中の人物がいつしか語り手自身にすり替わっていくし、つまり「話にでてきたAは実はBで、そのBはCへと変わってしまう。そして変身したCは、実は語り手のDなのだ」みたいな感じである。

 大きく語れば、ブルジョワのアスコイティア家で生まれた世継ぎのボーイは世にも醜い畸形児だったわけで、廃墟のような修道院に国中からそんな畸形ばかりを集めた中で外に出されることなく成長する。ボーイの養育は秘書のウンベルトに託されるのだが、このウンベルトは聾唖のムディートとして自身の伝記を書こうとしている。修道院にはこのほかに他に行くところのない老婆たち、シスターたちが奇々怪々な暮らしをしている。そこにまずはアスコイティア家のイネス夫人が訪れ、そのあとにあるじのヘロニモも来ることになるだろう。
 ちょっと今は思い出せない様々な登場人物が入り乱れ、没落するブルジョワ一家、見捨てられようとする修道院のさまざまな挿話が繰り拡げられることよ。

 そういうところでは、「滅亡する一族の年代記」であった『百年の孤独』を思わせられるところもあるけれども、こっちはただただ「おぞましい」世界が展開する。この「おぞましさ」に中毒性があり、いちど読み終えた今になっても、さまざまなキーワードをたよりに「再読せよ」という声が聴こえてくる。
 まあかんたんに読み終えられる書物ではないのだが、初読の記憶の消えないうちに再読してみようか。