ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『父の秘密』(2012) ミシェル・フランコ:脚本・監督

父の秘密 [DVD]

父の秘密 [DVD]

  • 発売日: 2014/06/13
  • メディア: DVD

 2012年のメキシコ映画で、カンヌの「ある視点」部門でグランプリを受賞した作品という。観た「GYAO!」では「R15+」表示がついていた。
 映画冒頭から固定カメラの映像がつづき、特に何度もあらわされる、車の後部から運転者の後ろ姿と車の進行方向を映していく映像が印象的なのだが、この「車の中からの映像」は、ラストのボートの映像に引き継がれ、観客として「目撃」してしまっているという気分にはなる。

 車の事故で母を亡くした父娘が、メキシコシティに転居してくる。どうもその事故のとき娘も車に乗っていたようなのだが、父は映画冒頭の行動からも娘との会話からも何かを隠そうとしているようで、それが「父の秘密」なのかと思ったのだが、そういうものではなかった。たしかに父は新しい職場でも皆の雑談に耐えられずに辞めてしまったり、危険運転をする運転手と街頭でケンカしたりする直情的な面もあるのだが(このことがラストの父の行動につながる)、この映画は娘が高校で受けるあまりにひどい陰湿な「いじめ」が第一の主題だった。
 娘はその「いじめ」のことを父にも誰にも話さないのだが、クラスでの海への旅行(臨海学校?)でいじめはさらにエスカレートする。彼女をいじめる同級生たちはもちろんその「いじめ」が教師らにバレないようにしているのだが、服もからだも汚された娘のからだを洗わせるため、夜の海に入らせる。一人だけが衣服が濡れているとまずいので全員で海に入るのだが、海から上がってみると娘がいつまでも海から上がってこないのだった。
 ここには伏線があって、転校したてのときに娘は同級生に「前の町では何をやっていたの?」と聞かれ、「サーフィン」と答えているわけで、海のないメキシコシティの生徒より、はるかに泳ぎが達者なのだと想像がつく。「ああ、うまく逃げたな」と思うわけだ。彼女は転居前の空き家になっていた旧家に一人戻っていた。

 娘が行方不明になり父親も呼ばれるのだが、その夜になって、誰かから娘がいじめられていたことを推測させるDVDが父の家に投げ込まれていた。
 事情がすべて理解できた父は学校や警察に訴えに行く。「いじめ」があったことは明らかにはなるのだが、高校生は未成年なのでそれ以上取り調べることはできず、責任は問えないという。そこで娘は溺死したと思っている父は、怒りにまかせてある行動を取る。

 最後の行動を取る父親と、旧家のベッドの上でひとりリンゴをかじったりする娘との対比が痛い。

 ‥‥これは救いのない映画で、娘が生還していたことも、彼女の最後のショットをみるとやはり不安はぬぐえない。
 この映画が終了したあとにも物語はつづくわけで、その「その後の物語」を想像してもつらくなる。その演出スタイルも観るものに「痛み」を増加させるだろう。過激なセックス・シーンもヌードもないこの作品を「R15+」とした意図も、現実に「いじめ」問題のはびこる日本国内では理解できる処置だとは思った。