ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『李陵』中島敦:著(岩波文庫『山月記・李陵』より)

 漢の武帝の時代の物語である。物語の中心には武帝に仕えて匈奴と戦った李陵がいるわけだが、匈奴に捕らえられて「不忠」の疑惑の持ち上がった李陵を、武帝に逆らっても擁護した司馬遷、そして匈奴の地にやはり捕らえられていた蘇武、この三人それぞれの国(漢)への思い、その「運命」が、漢文調の硬質な文章で語られる。
 もちろん原典がある歴史上の物語を中島敦が取り入れ、「翻訳」ではないオリジナリティを持った「物語」として完成させているわけで、読んでいてただただ、中島敦の絶妙な語り口に酔うわけである。
 特に前半、五千の兵で匈奴に立ち向かい、やがて敗れることになる李陵の軍の描写の面白さは格別だった。