ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『イメージの本』ジャン=リュック・ゴダール:監督

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 ゴダール、88歳の最新作。ゴダールよりも半年ほど年上のクリント・イーストウッドも先日すばらしい新作が公開されたし、そのイーストウッドよりさらに半年ほど年上のフレデリック・ワイズマンもまた、精力的に撮りつづけている。ワイズマンの近作をしばらく観ていないが、次の『ニューヨーク公共図書館』はぜひ観たい。というか、彼らに比べれば、まさにわたしなどまだまだ「鼻たれ小僧」なのである。

 さて、このゴダールの新作、基本は過去の映画からの映像にエフェクトをかけたコラージュ作品というところで、そこに文学作品、社会学書からの引用、ゴダール自身によるナレーションが重なる。全5章からなる最終章にだけ、この映画のために中東(チュニジア?)で撮られた美しい映像が挿入される。
 映画はいきなりに、先日亡くなられたスコット・ウォーカーの歌声が聴かれてちょっと驚くのだけれども、やはりヨーロッパでの(特に映画界での)スコット・ウォーカーの評価というのは、日本でのスコット・ウォーカー評価とは全然ちがうようだ。改めて追悼。

 この作品はソヴィエト~ロシア映画の引用から始まり、いろいろな列車で移動する映画のシーンに続き、さいごは現在の中東の映像をアルジャジーラの映像なども交えて映される。やはり、近代~現代のフランス、とりわけフランスにおいて、考察すべき「外の世界」とはソヴィエトロシアであり、そして今は中東だということだろうか。
 その中東は「暴力」の世界なのだけれども、さいごにゴダールは「希望」のあり方について語る。映画は、マックス・オフュルスの『快楽』の、あまりに印象的なシーンで唐突に終わる。
 引用された様々な映画の断片は、それがすべて肯定的に引用されているわけではなく、スピルバーグの『ジョーズ』は嘲笑を持って、リドリー・スコットの『ブラックホーク・ダウン』は批判的な視点から引用されていただろう。意外とゴダール自身の作品からの引用も多く、章ごとの文字の挿入などからは、ゴダールのかつての『男性・女性』や『気狂いピエロ』を思い出したりもする。
 日本映画では溝口健二の『雨月物語』の短いシーンが挿入されるけれども、これは宮川一夫によるワンシーンワンカットのすばらしいシーンでもあり、古典的な、美しいまでに暴力を描いたシーン、ということだろうか。この一瞬のカメラの移動に、「やはり溝口映画はすっばらしい」などとは思ってしまうのだった。

「何一つ望み通りにならなくとも 希望は生き続ける」