ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

2019-01-19(Sat)

 土曜日。今日は小曽根氏の作品を展示している代田橋のギャラリーに、古い友人のKAさんが来てくれるという。わたしも合わせて行き、久しぶりに彼女に会いたいと思うのだった。ところが休みなもので悪癖で午前中からアルコールを飲んでいたりしたら、約束の時間に合わせて「もう出かけなくっちゃ」という時間には、すっごい気分が悪くなってしまっていた。なんということ。しかし「約束」ではあるし、やはりKAさんにはお会いしたい。がんばって、午後から出かけるのだった。
 電車の中ではずっと寝て、お茶の水駅で乗り換えて新宿へ、そして代田橋へ。気分は最悪。ギャラリーの近くまで行くと、おそらくは同じギャラリーへ行こうとしているらしい女性の三人組が、立ち止まって案内状を取り出して皆でのぞき込み、「どこなのよ?」みたいにやっている。チラッとその案内状をのぞいてみると、まさにわたしの行くギャラリーの案内状だったので、「のぞき込んでごめんなさい、それ、ココですよ」と教えてあげる。とにかくわかりにくいといえばわかりにくい場所ですから。
 わたしもギャラリーの下のスタンドバーへ行き、店番のFさんにあいさつ。オーナーのIさんはインフルエンザでダウンしているらしい。KAさんからメールで、あと2〜30分かかるみたい。まだ気分が悪く、ノンアルコールビールを注文して飲んでいたら、少し気分も良くなった。

 そのうちにKAさんもいらっしゃって、作品を観ていただき、「じゃ、どこかでゆっくりお話ししましょうか」ということで、ギャラリーを出る。
 このギャラリーは「沖縄タウン」という通りの中にあり、それなりに小さな居酒屋もあるのだが、どうも「コテコテ」という感じで今のわたしの胃の調子にマッチしないし、そもそもカウンター席だけみたいな店ばかりだ。KAさんに「いや、胃の調子が悪いのですよ」と話し、「なんかサラダとかのある店がいいです」と、代田橋の駅までのあいだにそういう店もないので、駅の反対側に行ってみた。
 どうもこの「代田橋駅」の周辺はなんというのか、新宿からも渋谷からもすぐ近くという立地条件なのに、どこか「取り残された」という雰囲気のただよう街で、大きな店もコンビニもあまりない。もちろん、大きな居酒屋のチェーン店なども皆無。いい街だ。
 駅の前から少し歩くと、小さな居酒屋の入り口を見つけた。黒い木の、傷だらけの引き戸で、「これこれ、こういうところを探していたのよ」とKAさんと合意して、中に入った。ひなびた感じのテーブル席もあり、すっごくいい感じだ。不思議なものでそうやってまた飲んでいるとどんどん元気になってきて、「焼酎の水割りなんて飲んでられないよ!」と、「ロック」で注文したのだけれども、持ってこられたそのグラスが紅色の美しい切子グラスで、つい「おおおっ!」と声を出してしまうのだった。さらにわたしは元気になる。

 KAさんは、今は「能」のファンだという。そんなところから、いろいろな舞台の話、読んでいる本の話、美術の話、映画の話と話題が拡がって、とても楽しい時間をおくることが出来た。特に彼女が「最近はノヴァーリスに惹かれている」といわれるのには、ちょっとおどろいてしまった。‥‥わたしの人生で、人が「わたしはノヴァーリスが好き!」などというのを聞くのは、これが初めてのことだ。わたしにとってノヴァーリスとは、クサい言い方をすれば「わが青春!」みたいな存在だった。もうしばらくノヴァーリスを読み返すこともしていないし、ノヴァーリスのすべてを読んだわけでもない。でも、わたしの本棚には「ちくま文庫」版の「ノヴァーリス作品集」3冊が並んでいる。これを機会に、またノヴァーリスを読んでみようかと思った瞬間だった。

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 あとおどろいたのは、わたしがベルリンを訪れた際に、そこで、当時まだほとんど無名の存在だった塩田千春さんに会ったことがあるのだということを知った。わたしの訪欧の記憶は悲しいことにほぼすべて消えてしまっているのだけれども、「そんなことがあったのか」とおどろくしかないのだった。
 KAさんの知的好奇心はあらゆる分野に及んでいて、知識も豊富。わたしも教えられるところが多かったし、たいていのわたしが持ち出す話題に反応してくれる。すっごい楽しい時間だった。いつのまにか、けっこう三時間近くの時間が過ぎ、「またいつかお会いしましょう」とお別れした。体調も回復し、すばらしい時間を過ごすことが出来た。って、考えてみたら、この日が新しい年にさいしょに人と飲みかわす体験だったか。すべり出しは好調だ。