ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『青い花』ノヴァーリス:著 今泉文子:訳(ちくま文庫「ノヴァーリス作品集 第2巻」より)

 「ドイツ・ロマン派」の文学の中心人物の一人として燦然と輝く「ノヴァーリス」の名だけれども、その夭折のため作品数はけっこう少ない。彼の散文作品(中に「詩」も織り込まれているが)であまりに著名なのがこの『青い花』。
 彼の執筆原理に当時盛んに書かれた「メルヒェン」というのがあり、これは「メルヘン」の語源ではあるのだろうけれども、「メルヒェン」=「メルヘン」と解釈してしまうと大きな誤りである。「メルヒェン」には、もっと統合的な原理があるのだ。

 この作品、第1部は主人公のハインリヒ・フォン・オフターディンゲン(この主人公の名が、この作品の原題でもある)が夢にみた「青い花」を求めながら多くの人と出会い、恋をして子どもにもめぐまれて自分の進路をしかとして行く過程が描かれているが、短い第2部はノヴァーリスの死によって中断されている。
 まあキリスト教的な原理と、ギリシア神話的な物語、神秘主義、さらに異教の物語などが織りつづられて壮大な宇宙原理のようなものが提示されるといえばいいのか、ちょっとした言葉のなかにノヴァーリスの哲学思想が含まれていて、ボケーと読んでいてもわかりっこない。丁寧な注釈によって「そういうことも言われているのか」と想像するだけのことではあるが。
 しかしその中にはヤーコブ・ベーメパラケルススのような人物の名も出てくるし、鉱石学、そして映画『CURE』にも引用されたメスメル(メスマー)の「動物磁気」の話なども重要要素として登場する。これはまるで18世紀末期の世界精神マップのようなものではないか。
 その描く精神世界は、この文庫本の表紙にもされているドイツ・ロマン派美術を代表するフィリップ・オットー・ルンゲの作品にも比されるものかもしれない(ルンゲもまた、ノヴァーリスのように夭折しているのだが)。

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 ただ、やはりわたしはこういうポジティヴな「求道精神」というのは、読解力ということもあってか苦手で、同じドイツ・ロマン派であれば、人の精神の闇の部分にもスポットをあてたE・T・A・ホフマンの方にこそ、惹かれてしまう気はする。