ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『カモノハシの博物誌 ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語』浅原正和:著

 3年半前にいちど読んだ本だけれども、前回はただ「カモノハシ」について知れること、という視点を中心に読んだのだけれども、今回は何というのか、「一冊の本」として通して読めた気がする。
 その「一冊の本」としての感想だけれども、もちろん「『カモノハシ』の博物学」的な部分は大きいけれども、それだけではなく、著者の浅原正和氏の「生物学者」としての立場から、カモノハシを例にとって、「哺乳類」というものの進化の歴史を、いろいろな視点から書かれているのがひとつに興味深かった。
 そんな中から、著者自身の体験からの日本の「博物館」の問題点も挙げておられ、この件は「科学博物館の標本管理のための予算が足りない」と去年クラウドファンディングが行われ、予想外の金額が集まったことは広く一般のニュースでも話題になったものだった。今読んでもこの本によって日本には「自然史博物館」がないこと、日本が伝統的に標本の収集・管理に資金を投入しないことなどが書かれており、この件への問題定義の役を果たしていたのではないか、とも思ってしまう。

 そんな、浅原氏自身の仕事上での困難も書かれてもいるし、カモノハシのことばかりではなく、もっと生物学の根本の基礎知識についてもわかりやすく書かれている本。そして、「カモノハシ好き」の浅原氏の興味から、「カモノハシ」をめぐる国際問題の話なども繰り広げられるわけだ。トータルに見ても、「生物学者」であり「カモノハシ・フリーク」な浅原正和氏が、しっかりと思いのたけを書き尽くした、という感じの良書。

 知る人ぞ知るように、今、オーストラリア以外のところでカモノハシを見ることはできない。これは今、オーストラリアがカモノハシの国外持ち出しを固く禁止しているからなのだが、なぜそうなったのか?というなかなかに興味深い話も書かれている。そこに「戦意高揚のために」オーストラリアからカモノハシが送られるのを期待したウィンストン・チャーチルの、オーストラリアに対する旧宗主国(?)的わがまま話もあるし、アメリカにカモノハシを送ろうとしたときにカモノハシの巣の「土」をアメリカに持ち込むことができなかった、などの問題があったのだ。
 1980年代、90年代には計画されていた「都市博」や「万博」を機会にそのカモノハシが日本に来る、という話もあったのだが、これはご破算になってしまった。
 まあオーストラリアとしてもそんな珍獣「カモノハシ」を使って、中国が「パンダ外交」を繰り広げるみたいに「カモノハシ外交」をやろうと思えばできるのだろうが、「ナイーヴな動物であるカモノハシは輸送のストレスに耐えられない」として、「カモノハシに会いたければオーストラリアに来い」ということなのだ。

 せめてもうちょっと、カモノハシに関するドキュメンタリーなどが見られるといいのだけれども、日本からそういうのを検索してもほとんど見つからない。YouTubeで1時間ほどのドキュメントが1本だけ見つかったぐらいのものだ。
 こういう、動物モノのドキュメンタリーがお得意の「National Geographic」にもそういうドキュメントはないようで、それはひょっとしたら、過去のチャーチルの横暴さのせいなのかもしれない。