ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『カモノハシの博物誌 ふしぎな哺乳類の進化と発見の物語』浅原正和:著

 先に読んだ『世界動物発見史』で、いちばん心に焼き付いた動物が「カモノハシ」だった。以来、わたしはカモノハシに夢中になってしまった。

 カモノハシは、この地球に棲む動物でも最も「謎」の、不思議な生き物だろう。基本的に哺乳類に近いのだけれども、そのくせに卵を産む。子供を「乳」で育てるけれども、母親は乳首を持っていない。そして何よりも、鳥ではないのに「クチバシ」を持っている。
 オーストラリア東部とタスマニア島に棲息するこの動物は、先住民のアボリジニにはずっと知られた動物だったけれども、18世紀末にオーストラリアに渡ったイギリス人によって「発見」され、この「小さな水陸両棲のモグラのなかま」の標本は、まずは1799年にイギリスに送られるのだけれども、イギリスの博物学の学会ではその標本を見て、「こりゃあいろんな動物のパーツを組み合わせた<創作物>だろう」と思うのだった(当時は、サルの上半身に魚の下半身をくっつけた<人魚>と称したはく製などが登場したりしていたのだ)。
 「いや、そうじゃない。じっさいにこういう動物がいるのだ」とわかったあとも、解剖学的に鳥のように<排出口>がひとつしかないこと(つまり、肛門も産出口もいっしょなのだ)がまた議論を呼ぶ。このために「単孔類」という動物種が、同じオーストラリアで発見されたハリモグラとともに創出されるのだけれども、はたしてカモノハシは卵を産むのかどうか、ということがけっこう長いこと議論を呼ぶ。捕まえたカモノハシが卵を産み落としたのは確認されたことはあるけれども、それは捕まえられたショックで早産したのだろうという意見もあった。
 いろんな研究者がオーストラリアに渡ってカモノハシを観察したり、飼育しようと試みたりしたが、ついにじっさいにカモノハシが産卵するということが確認されたのは、イギリス人が「発見」してから85年ものち、1884年のことだった。
 そういうことがわかったあとも、実はカモノハシのクチバシには電気を感じる感覚神経が細かく張られていて、ほかの動物にはない「第六感」を使って水底の「エサ」を探索しているらしいことがわかったり、ほんのつい先日も、なぜかカモノハシの毛皮は紫外線で青緑色に発光することがわかったり(何のためかはわからない)、いつまでも「謎」に包まれた「生き物」なのではある。

 そういう生物学的なカモノハシの特性はじっさいに本を読んで楽しんでいただいた方がいいが(ぜ~んぶ書き写さなくっちゃならない)、この「日本で初めての」カモノハシの専門書には、トータルにカモノハシの楽しい話がいっぱい盛り込まれている。
 著者の専門である、「哺乳類」とこのカモノハシの「単孔類」とかの進化の歴史をたどる記述は、正直いってちょっと専門的すぎて、カモノハシ自体の持つ「楽しさ」から離れた気もするけれども、カモノハシとそれを取り巻く人間たちの話は、とにかくとっても興味深くも面白い。

 今、カモノハシを見たいと思うと、もうオーストラリア以外の世界中の動物園のどこにもカモノハシは飼育されていないわけで、もちろん日本に来たことはない(「愛知万博」のときに来日の話はあったらしいが、ポシャってしまったのだ)。来日していない最後の「大物」なのである。
 これはカモノハシがとってもナイーヴな生き物で、過去に海外の動物園に移送中にほとんどが死んでしまったということから、もうオーストラリアとしては「海外には行かせない!」と決めたらしい(たった一度だけ、アメリカの動物園にうまく到着し、数年間飼育された記録はあるらしいが)。そこまでに「絶滅危惧種」ではないとはいえ、送りだせば死んでしまうのでは「もう渡航させない!」となるのも致し方ないことだろう。

 この本に書かれている、オーストラリアで早い時期にカモノハシの飼育システム(飼育場)を開発した人の話(このシステムは今でも活用されている)だとか、タスマニア島で「カモノハシの楽園」を築いた人の話など、単にカモノハシの話を越えて、人類の「自然保護」という課題への、ひとつの回答として読むことも出来る。

 あまりに愛らしいカモノハシ、わたしも実は夢中になって、近々カモノハシのフィギュアを購入しようと思っている。ただ、カモノハシのことを調べていて、ディズニーのアニメのキャラクターにカモノハシがいることも知ったのだが、そのディズニーのカモノハシはこれっぽっちも可愛らしくもなく、「やめてくれ!」という次元のモノだった。やはりディズニーはあかん。

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