ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『モスラ対ゴジラ』(1964) 円谷英二:特技監督 本多猪四郎:監督

 『ゴジラ』公開以来、東宝怪獣映画十周年を記念しての作品で、先に大ヒットした『キングコング対ゴジラ』『モスラ』の2作を受けて、「ゴジラモスラを対決させようじゃないの」となった作品。
 円谷英二東宝に「特撮用の最新機材」を求め、画面合成用の「オックスベリー 1900 光学式プリンター」が購入されたのだった。これにより、実際の市街地などの映像に別撮りのゴジラの映像などをあまり違和感なく合成できるようになり、特撮技術の向上となったし、今回の市街地の破壊用大規模ミニチュアの製作は、名古屋城周辺のみとなった。

 前作『キングコング対ゴジラ』でのエンターテインメント路線からの揺り戻しからか、希薄になりつつあった「反核」のメッセージもはっきりと打ち出される。これは三浦博士(小泉博)らがゴジラに対抗するため、モスラの助けを借りようとモスラのいるインファント島を訪れるとき、核実験のために荒廃した島の風景を写すことでも示されていた。
 そして前作ではテレビ業界を戯画化して描いたのに比べ、本作では「レジャー産業批判」「土地の所有権の問題」「報道の使命」などを扱い、善と悪との対立という問題を前面に打ち出している。この人間ドラマは「ゴジラ=悪」「モスラ=善」という対立でもあるが、実ははっきりと「ゴジラ=悪」とされた作品は、昭和シリーズではこの作品が最後になったということ(つまりこれ以降、ゴジラは「人間の味方」的存在、子供たちのヒーロー的立ち位置に変化して行くのだ)。
 ただこの作品の中でも、資金を持って逃げようとした興業主のボスが、ゴジラの破壊する建物の下敷きとなって死ぬことで、ゴジラも間接的に「善」の側に立った、ともいえるのかもしれない。

 映画は「超大型台風」襲来の暴風雨の映像から始まるけれども、この暴風雨の撮影が気合いが入っていて、このシーンを観ただけでも期待が持てるのだった(その前の、タイトル部に流れる伊福部昭の音楽も「もうひとつのゴジラのテーマ」として素晴らしいものだったが)。
 冒頭では、とある静岡県の海岸に流れ着いてしまった巨大な「モスラの卵」を、興行師が漁民から買い取り私有化し、その卵をメインとしたレジャーランドを造ろうと目論む。卵の取材をしていた新聞記者の酒井(宝田明)と中西(星由里子)の前にインファント島から来た2人の小美人(ザ・ピーナッツ)が現れ、「台風で流出してしまったモスラの卵をインファント島に返してほしい」と訴える。酒井と中西は小美人を連れて興行師の熊山(田島善文)を訪ねるのだが断られ、熊山は逆に小美人も買い取りたいと言う。

 失望した小美人はインファント島に戻るが、そんなとき、四日市のコンビナート地帯の地中からゴジラが復活。名古屋市方面に進んで名古屋城などを破壊するのだった。今回はゴジラの進路にあたる地域で人々が避難する様子が写されて緊迫感を増していたが、考えたらこういう避難する人々のシーンは『キングコング対ゴジラ』では描かれなかったな。
 酒井たちはゴジラを倒すのにモスラに助けてもらうことにして、インファント島へ出かける。「卵を返してほしい」と言ったのに返してもやらず、そうやって「助けてくれ」とお願いに行くなんてずいぶんと調子のいいヤツらだと思われそうなものだが、それでも余命いくばくもないという成虫のモスラゴジラ退治に来てくれるという。インファント島の人たち(そしてモスラも)、「見返りを求めない」というか、資本主義の論理ではない思考法なのだろう。マルセル・モースの書いた「ポトラッチ」というか。

 というわけで成虫のモスラゴジラと戦い、「命」と引き換えの武器の「毒鱗粉」でゴジラを攻撃するが、「あと一歩」というところでモスラの卵のそばで命尽きてしまうのだった。
 さてそれで自衛隊ゴジラ攻撃などもあるのだが、ついにモスラの卵が孵化。卵からは2匹の双子の幼虫が誕生し、ゴジラと戦うのだった。幼虫モスラの武器は繭をつくるための「繭糸」の噴射攻撃だ。糸にからめ取られて「繭状」にされ、身動きの取れなくなったゴジラはそのまま海に転落するのだった。この「繭糸」、口から噴出させるのは液体ポリエステルで、ゴジラの身体にまとわり付くのはゴム糊を扇風機で吹き付けていたらしいけれど、じっさい、そのゴム糊があとで取れなくなってしまって大変だったらしい。

 ゴジラを倒したモスラと小美人とはインファント島へと海路帰って行くのだが、それを見送る酒井らに「お礼も言わなくって返していいのか」と聞くものがいたが、酒井は「お礼は、わたしたちが人間不信のない、いい世界をつくることだ」と語るのであった。

 かように、メッセージはあるし、演出のテンポもいい。音楽はいいし、そして撮影(本編と特撮とでは撮影監督は異なるのだが)もとても見事なものだったと思う。
 先に観た『キングコング対ゴジラ』で相当にガックリと来てしまったわたしだが、この作品は見事だと思った。じっさい、昭和のゴジラシリーズではベスト3に入る作品ともいわれているようだし、この作品でのゴジラの容姿、けっこう人気があるようだ(目の上に眉のような白い部分があるのだ)。わたしはやっぱり「なで肩」なのが気になったのだが。