ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ラ・ポワント・クールト』(1954) アニエス・ヴァルダ:脚本・監督

  

 すでに写真家としてのキャリアをスタートさせていたアニエス・ヴァルダは、1954年にこの映画デビュー作を撮ったけれども、この作品は「ヌーヴェル・ヴァーグ」の先駆け、もしくは「ヌーヴェル・ヴァーグ」の最初の作品とみなされているようだ。

 ラ・ポワント・クールトとは南フランスの「漁師の村」として知られる場所の地名で、ヴァルダがさいしょ数日間、この村で写真撮影を行ったのだけれども、そこで「長編映画を撮る」ことを決意した。ヴァルダはそれまでに約20本の映画しか観たことがなかったということで、彼女はこの作品について「カメラをどこに、どのくらいの距離に置き、どのレンズとどんな照明を使うかということだけを考えて映画を作り始めました」と述べている。
 この作品は相当な低予算でつくられ、スタッフやキャストには報酬は支払われなかったという。基本的な出演者は現地のアマチュアだったが、主演の2人、フィリップ・ノワレとシルヴィア・モンフォールは映画出演の経験があった。フィリップ・ノワレは誰もが知る名優となったし、シルヴィア・モンフォールはロベール・ブレッソン監督の『罪の天使たち』に出演している。

 作品は、自分の生まれ故郷である漁村に戻って来た男と、パリから男を追って来たその妻とが、お互いの関係を終わらせようかと対話を繰り返す部分と、漁場である湖(字幕では「湖」なのだけれども、「海」ではないかと思えるのだが)が汚染されたために漁を禁じられそうな、漁村の住民たちのドキュメンタリー的な映像とから成り立っている。

 冒頭、道に沿って移動して行くカメラが木の下に立つひとりの男を捉え、そのままカメラは男を通り過ぎていくけれども、また途中で引き返してくるというそのカメラの動きが印象的で、「写真であれば静止画でしかない映像が、映画であればカメラ自体も動きながら持続した映像を撮れるのだ」ということをやって見せているように思えるのだった。以後もカメラの動き回るショットが多いし、また、(特に対話する男女の場面で)いかにも写真的な構図で対象を捉えるショットもある。観ていて、まさに「ドキュメンタリーとドラマとが融合された作品」という印象である。

 しかし、この男女の交わす対話は、自分たちの関係を問い直しながらの「愛」の本質についての観念的対話が中心ではあり、思索的気分が持続する。
 漁村の人たちのドラマでは、禁じられた漁をしたために逮捕される村人が出るし、まだ幼い子供がベッドの上で死んで行く場面もある(それが漁場の汚染と関係があるのかは不明のまま)。
 まだ16歳と若いのに「結婚したい」と言い、親に反対される娘も登場するけれども、村の大きな祭り「船上槍試合」でその娘の彼氏が好成績をあげたため、親も交際を認めるという展開もある。この「船上槍試合」の行われるシーンはけっこう時間が割かれ、主人公の2人の男女もこの祭りを見に来ていて、このあとに和解への糸口を見つけたりする(女性は村人らの姿を見て考えを改めるようだ)。
 ラストは、そんな祭りの大勢の村人をかきわけて、主人公男女が村から去って行く場面か。

 昨日観た『5時から7時までのクレオ』でも、クレオのだだっ広い部屋に何匹もネコがいて目をひかれたのだったが、この作品でも町角のいたるところにネコがいて、道を横切ったりして行く。じっさいにこの村にそんなにネコが棲んでいるとも思えず、これはアニエス・ヴァルダが「ネコ好き」なもので、意識的にネコを集めて出演させているのではないかと思った。

 あと、この作品の編集担当はアラン・レネだった。同じ「左岸派」ではあったし、アラン・レネアニエス・ヴァルダとは終生良い友人であったらしい。

 この作品は批評家らに賛辞をもって迎えられたが、一般公開での客の入りは悪く、おかげでアニエス・ヴァルダは『5時から7時までのクレオ』(1962)まで、「長編映画」は撮れないことになった。