ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『L.A.コンフィデンシャル』(1997)ジェイムズ・エルロイ:原作 カーティス・ハンソン:監督

 監督のカーティス・ハンソンは数年前に亡くなられたようだけれども、この1990年代に彼は絶好調で、中でもこの『L.A.コンフィデンシャル』は、彼の最高傑作だろうと思う。
 原作はベストセラーになったジェイムズ・エルロイの四部作の一篇で、カーティス・ハンソンブライアン・ヘルゲランドとで脚本を書いている。このブライアン・ヘルゲランドという人は、のちにクリント・イーストウッドの『ブラッド・ワーク』と『ミスティック・リバー』の脚本を手がけた人。
 なお、このジェイムズ・エルロイの四部作からは、ブライアン・デ・パルマの『ブラック・ダリア』も生まれている。

 さて、この『L.A.コンフィデンシャル』、1950年代のロサンゼルスでマフィアのボスが逮捕されたあとの混乱の中、カフェで元刑事を含む6人が惨殺された事件を捜査する、性格も立場もちがう3人の刑事を中心に描いていく作品で、その3人の刑事とはエド・エクスリー(ガイ・ピアース)、バド・ホワイト(ラッセル・クロウ)、そしてジャック・ヴィンセンス(ケヴィン・スペイシー)。他に高級娼婦のリンとして、美しいキム・ベイシンガーが映画に華を添えている。
 捜査の中心になるエドは正義感も向上心も強く、警察署内部で反感も持たれているが、「表面的にすべてを丸く収める」才を持つ策略家でもある。バドは直情的で捜査で暴力もいとわないが、「正義の追求」においてエドに協力する。また、捜査の過程で娼婦のリンと深い仲にもなる。
 ジャックはテレビの刑事ものドラマのアドヴァイザーもやり、ゴシップ誌に情報を流して裏金をせしめたりもしている。その顔の広さでエドに協力を求められ、しばらく協力するが、知らずに署内の「黒幕」に疑問をぶつけ、射殺されてしまう。

 基本的に50年代の刑事ノワールものの再現、でもあるのだけれども、刑事が3人いるだけに面白さも3倍か(?)。それぞれの捜査方法の違いが見て面白いし、そこからドラマが生まれたりもする。
 スピーディーな演出も快調で、じっさいに起きる事件も次から次に連続し、休むひまもないのである。特にそんな演出の中でわたしが「これは最高!」と思ったのは、序盤に逮捕されたマフィアのボスの跡継ぎに誰がなるのかというとき、息つぐ暇もなく次々にマフィアどもが消されていく場面があるのだが、この場面でバックにはベティ・ハットンの「Hit The Road To Dreamland」という曲が、イントロからエンディングまで途切れることなくに全曲が使われている。
 ベティ・ハットンは映画『アニーよ銃をとれ』でアニーを演じたり、映画俳優としても活躍した人だが、この曲は彼女が出演した1942年の『星条旗のリズム』というミュージカル映画で歌われた曲で、フルオーケストラに男性コーラスをバックにした、ミュージカルらしい楽しい曲ではあるが、そんな陽気な曲がこの映画では殺伐とした殺しのシーンの連続の中で全曲が使われている。
 その、使われる楽曲と映像とのギャップ、そして短かいながらも一つの曲が全曲流されるということでも印象深いのだけれども、わたしにはこの場面のインパクトはどんな映画作品からも受けなかったものだった。この場面だけなら「史上最高の映画!」とも言いたくなってしまうのだ。