ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『女経』(1960)増村保造・市川崑・吉村公三郎:監督

 3人の監督による、30分ほどの作品3本のオムニバス映画。それぞれ若尾文子山本富士子京マチ子が主演していて、そんな当時のトップ女優3人をいっぺんに楽しめる映画。
 原作は溝口健二の『残菊物語』を書いた村松梢風だけれども、この映画の原作は、村松がかかわった女性12人のことを書いた短編集で、まあ村松梢風という男、金持ちのいい男だったようでおまけに金ばなれもよく、相当に女性にもてたらしい。そういう「オレが付き合った女たち」というような本なわけだけれども、実はこの映画、その『女経』からそれぞれのタイトルを借りただけで、内容はほとんど無関係らしい。脚本は3作とも八住利雄ということになっているが、第二話は市川崑の妻、和田夏十だったらしい。
 ま、それぞれ「恋よりも金」というような女性の話ではあるけれども、その展開にはそれぞれの面白さが。

 第一話「耳を噛みたがる女」(増村保造:監督)

 家族とダルマ船に住みながら大きなキャバレーに勤める紀美(若尾文子)は、男客にうまいこと言って誘い出して金をせしめ、肝心のところでウソを使って逃げてしまうというやり方で金を稼ぎ、株に投資しているのだ。そんな彼女が心底好きなのは社長の御曹司の正巳なのだが、その正巳の方もまた、紀美をうまくモノにしようと思っているだけ。
 ホテルで紀美とひと晩を過ごした正巳はホテル代も払わずに先に帰ってしまうが、そのあとになって「紀美はほんとうに自分のことを愛してくれている」と気づき、紀美に会いに行くが、逆に正巳に騙された思いの紀美は正巳を見限り、また男を騙す生き方で生きようと思うのだった。

 第二話「物を高く売りつける女」(市川崑:監督)

 スランプですべてをすっぽかし、湘南海岸へ逃れてきた流行作家の三原(船越英二)は、そこで「夫が死んでしまい、家もなにも処分してしまいたい」という、爪子(山本富士子)という女性と出会い、その家へ招かれる。
 女性の誘惑もあって、「じゃあオレがこの家を買う」とした三原だが、実はあることから三原は爪子が不動産屋と共謀して家を売ろうとしていることを知っていた。三原は爪子とならスランプから抜け出せると、爪子に結婚を申し込むのだった。

 第三話「恋を忘れていた女」(吉村公三郎:監督)

 昔は京都の売れっ子芸妓だったお美津(京マチ子)は旅館の主人のもとに嫁入りするが、主人は早逝。傾いていた旅館の経営を引き継いだお美津は旅館を修学旅行の専門旅館にするなどして立て直し、今では別に酒場も経営するまでになっている。死んだ主人の妹が結婚すると金を借りに来るが、お美津はそういう話には耳を貸さない。妹はお美津のことを「昔の男を愛した心を失っていて自分のことだけを考え、あとは年老いて行くだけだ」と批判する。
 お美津と昔付き合っていた男がお美津を頼って会いに来るが、男は詐欺罪で警察に追われていて、お美津の前で逮捕される。
 旅館に宿泊していた中学生が旅館の前で交通事故に遭い、旅館の客室で引き取る。当初お美津は中学生を置きたくなかったが、その中学生の身の上を聞いて同情もする。その子に輸血が必要になったとき、お美津が申し出る。その子の笑顔を見てお美津の中で何かが変わり、妹に金も貸してやり、自分は逮捕された男の出所を待ってみようと思うのだった。

 それぞれの女優の持ち味がよく出ている作品だろうとは思う。キュートな若尾文子、艶やかな山本富士子、そしてあでやかな京マチ子。輸血のために腕を差し出すシーンでの、そのあでやかさは目に焼き付いた。
 第三話の撮影は宮川一夫が担当していて、ところどころに彼らしい見事な撮影をみせてくれる。特に逆光でシルエットになった登場人物の姿、そして舞妓の踊る姿は一瞬だけれども、ハッとする。そしてやはりカメラが外に出たときの、京都の路地、町並みの撮影は「さすが」であった。