原題は「Young and Innocent」で邦題とはまるっきし違うし、その邦題の「第3逃亡者」というのも、いったい何が「第3」なのか、さっぱりわからない。
映画は『三十九夜』と同じように、「殺人犯として追われた男性が、出会った女性の協力を得て真犯人を暴き出す」というストーリーで、こういうのはヒッチコック好みの題材だろう。
映画は室内で罵り合う男女の姿を捉えることから始まり、激高した女性は男性の頬を打ち、男性は恨めしい表情を浮かべてドアを開けて外へ出て行くが、そこは海岸の上の建物で、外は激しい雷雨なのであった。
ここで映画は昼間ののどかな海辺の砂浜の映像になるが、その砂浜には女性が倒れて死んでいる。倒れている女性をロバート・ティスダル(デリック・デ・マーニー)が見つけ、助けを呼びに行くが、別の女性らが死体を見つけ、そこから走って行くロバートも目にする。
殺されていたのは女優のクリスティンで、映画冒頭で男とケンカしていたのは彼女だったのだろう。
ロバートは現場から逃げた重要容疑者として警察に捕まるが、取り調べの途中で「このままでは自分が犯人にされる」と思い、真犯人を探すためにその場から逃げ出し、警察署長の娘のエリカ(ノヴァ・ピルビーム~彼女は『暗殺者の家』で犯人らに誘拐された役で出演していた~)の車に忍んで逃亡する。
エリカはもちろん彼の逃亡の手助けをする気はなかったが、ロバートの第一印象が悪人に見えなかったことから、まずは無人の納屋に彼を隠して自分は家に戻る。
そのあと、エリカは食べるものを持って納屋へまた行き、ロバートから「自分は無実である」という話を聞き、けっきょく彼の無実を証明する証拠品を探すのに同行することにする。
手がかりの品を今は持っているはずの男を探し、陶芸品修理屋のウィル(エドワード・リグビー)という男を見つける。彼は真犯人に会ったことがあり、その犯人の手がかりは「グランド・ホテル」で見つかるらしいことがわかる。
ロバートとエリカとウィルはグランド・ホテルへ行くが、警察もロバートを追って来ている。実は犯人はホテルのダンスバンドのドラマーで、まさにホールで演奏しているところだったのだが、窓の外に多くの警官が来るのを見て「自分を追って来たのだ」と思い込む。演奏ミスを続け、途中で気分悪くなった犯人は気を失ってしまうが、エリカや警官らに囲まれた状態で意識が戻ったとき、「オレがやったんだ!」と自白して笑いはじめるのだった。
映画はイギリスの片田舎ののんびりした田園風景の中を、なかなかスムースに走ってくれないオールドスタイルの車に乗ったロバートとエリカ(車にはイヌも乗っている)が駆け抜けて行き、ちょっとしたロードムーヴィー気分。途中鉱山の中に走り行った車が、唐突な地盤陥没で地中に沈みそうになるなどのアクシデントもあり、エリカはすっかりロバートのことを愛するようになってしまうのだ。
けっこうユーモアを交えながらも、メロドラマ的要素も加えたサスペンスで、ヒッチコックは『三十九夜』の発展形として『間諜最後の日』の欠陥を克服しているように思える。
また、「映画演出」の進化として、「グランド・ホテル」へカメラが入って行くワンシーンワンカットの場面がある。カメラは上からホテルの受付を俯瞰しながら移動して、そのままダンスホールに入って行く。天井の高さから下降したカメラは直進し、ホールのステージで演奏する「犯人」に寄って行き、そのまま「犯人の顔」を大きくクロースアップするのだ。
まだロバートらは「犯人」を発見してはいないのだけれども、このカメラの動きで観客はロバートらよりも先に「犯人」を知り、彼がどこにいるのかも知ることになるのだ。もちろんそれはこの映画の冒頭に出て来た男ではあるが。
どうもわたしが観るヒッチコック映画は、1本おきにわたしの気に入ったりり気に入らなかったりして来ていて、順番でいうとこの映画は「気に入らない」順番だったのだが、いえいえ、わたしはけっこうこの映画、気に入ったのでありました。