ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『愛のメモリー』(1976) ブライアン・デ・パルマ:監督

 原題は「Obsession」。デ・パルマ監督が『キャリー』の前に撮った作品で、脚本はこの年『タクシードライバー』の脚本も手がけていたポール・シュレイダーだが、彼の脚本は「過去・現在・未来」の3部構成だったが、あまりに長くなるのでデ・パルマ監督は「未来」の部分を切り捨ててしまい、シュレイダーはその件でたいそうご立腹だったらしい。
 ヒッチコック(とりわけ『めまい』)の強い影響下につくられた作品で、音楽もヒッチコック映画の常連だったバーナード・ハーマンが担当(彼はこのあとの『タクシードライバー』が遺作になった)。撮影はヴィルモス・スィグモンド

 1959年、不動産業で成功したマイケル(クリフ・ロバートソン)の結婚10周年のパーティーのあと、家に侵入した賊によって妻のエリザベス(ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド)と娘のエイミーとが誘拐され、身代金を要求される。マイケルは身代金を支払うつもりでいたが、警察に止められる。
 身代金受け取りに失敗した犯人らは妻と娘と共に車で逃亡するが、警察に追われた車は事故を起こし爆発、車に乗っていたものは全員死亡してしまう。マイケルは妻と出会ったフィレンツェの聖堂をかたどった、大きな墓を建立するのだった。
 時は経って1975年、共同経営者のロバート(ジョン・リスゴー)と共に商用でフィレンツェを訪れたマイケルは、その聖堂の中で、妻のエリザベスに生き写しのサンドラという女性と出会う。お互いに惹かれ合う二人は婚約し、いっしょにアメリカへ渡って結婚式の準備をするのだが、またまたサンドラは寝室から何者かに誘拐され、寝室には身代金を要求する手紙が残されていたのだった。前回身代金受け渡しに失敗しているマイケルは、警察には知らせずにことを進めようとするが。

 かつて愛した死せる女性に生き写しの女性に会い、その女性を強く愛するようになるという根本のストーリーは、もちろん『めまい』である。この映画でもその「罠」を仕組んだヤツがいて、それは共同経営者のロバートで、エリザベスにそっくりな女性とは、1959年の事件で実は死んでいなかった、娘のエイミーだったのである。
 エイミーがアメリカへ渡り、マイケルの豪邸にひとり残されたときに屋敷内を見てまわり、鍵のかかった部屋(実はエリザベスの部屋だった)を見つけるという展開は、ヒッチコックの『レベッカ』を想起させられるし、マイケルがすべてを仕組んだ犯人のロバートともみ合って、手元にあったハサミでロバートを刺す、というのは『ダイヤルМを廻せ』の場面を思い出す。
 ラストの、空港でのスローモーションから、マイケルとエイミーのまわりをぐるぐると回るカメラへの流れは、とにかくヒッチコックとかいうことではなくても、この映画でいちばん記憶に残すべき、名シーンではあるだろう。

 実はストーリーを反芻してみると、「そりゃあおかしいんじゃないか」とか、いろいろといっぱいあるわけだし、「それではマイケルとエイミーは<近親相姦>をやっちゃったのか?」ということも気になる。それでもな~んとなく見通せてしまうというのも、主演のクリフ・ロバートソンの「棒立ち、無表情」の演技のおかげかしらん、などとは思ってしまう。
 あんまり話題作出演のないジュヌヴィエーヴ・ビジョルドにとって、この作品は60年代の『1000日のアン』、80年代の『戦慄の絆』と並んでの代表作といえるのかもしれない。
 ジョン・リスゴーも、わたしの好きな役者さんだった。同じデ・パルマ監督の『レイジング・ケイン』なんて、また観たくなってしまったが。