ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『影の軍隊』(1969) ジョセフ・ケッセル:原作 ジャン=ピエール・メルヴィル:脚本・監督

 この原作が、ブニュエルの『昼顔』の原作者ジョセフ・ケッセルによるものだということで、ちょっと驚いてしまった(ブニュエルの共同脚本家であるジャン=クロード・カリエールは、ブニュエルが『昼顔』を撮ると聞いたとき、「あんなくだらない小説を!」と言ったというが)。
 しかし、ケッセルはじっさいに当時フランスでレジスタンス活動を続けており、その自らの体験からこの『影の軍隊』を書いたという。そしてメルヴィル自身もまたレジスタンス運動に参加し、イギリスに渡って「自由フランス軍」に参加していたらしい。だからこの『影の軍隊』で、リノ・ヴァンチュラらがロンドンへ渡って「自由フランス」と接触したり、映画館で『風と共に去りぬ』をみるなどというのは、メルヴィル自身の体験なのだろう。
 ケッセルの原作も「実在の人物」をモデルに書かれたものではなかったというが、その原作にさらにメルヴィルは「自分の体験」を加味したわけだろう。

 映画の中で主人公のフィリップ・ジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)はさいしょに登場したときからレジスタンスの隠れた「戦士」であり、なぜ彼がレジスタンス運動に身を投じたかなどということは描かれはしない。フランス人にとって、レジスタンスに参加することは「当然のこと」なのだ。
 そしてこの映画では、彼らの「レジスタンス運動を見せる」というのではなく、ナチスドイツに追われる彼らの姿こそが、表にあらわれているようである。

 ナチスに捕まれば拷問を受けてレジスタンス組織のことを追及されるから、捕まったときには運動参加者がいつも持っている「青酸カリ錠」で自殺するのだが、この映画の冒頭ではジェルビエはナチスに捕まっており、あとで語られるように「青酸カリ」を服用することなく、無事に脱出する。これはまだフランス国内の情勢がそこまでに悪化していなかったゆえなのか。
 このあとに仲間のルペルクがナチスに拉致されるが、彼は「青酸カリ」を持っていなかった。何人かのメンバーが結束し、ルペルクを救出することになるが、そのためには収容所にいるルペルクにその「救出作戦」のことを伝えなければならない。どうするのか。

 また、そのしばらくあと、有能な運動員だったマチルド(シモーヌ・シニョレ)が捕らえられ、彼女が持っていた写真からポーランドに住む娘が割り出され、ナチスから「仲間を売って娘を助けるか、それとも娘を犠牲にするか」との二択を迫られているとの秘密裏の知らせが届く。マチルドに命を助けられた体験もあるジェルビエだが、他の構成員の反対を押し切り、マチルドを殺すことを決定する。

 登場する人物はいずれもレジスタンス構成員かナチス兵士ばかりで、観ていても気の休まるときはまるでない。そして「そこまでの勇気が必要なのか」と、自分にはとても出来ない思いもして空恐ろしくなってしまう。ただ、ジェルビエは(先に書いたが)潜水艦でイギリスに渡るのだが、その短い時間だけが観ているこちらも気の休まる時間ではあっただろうか。

 実は、この作品の感想を少しAmazonで読んだのだが、この作品でレジスタンス仲間をも殺害することを「粛清」と呼んで、そのような行為を批判する意見、「やはりレジスタンス運動とはテロリスト集団なのだ」という複数の意見を読んだ。まずこの映画では「粛清」などと呼ばれる行為は描かれていない。そして、「レジスタンス」を「テロリズム」として否定するならば、もう歴史から学ぶことなど何もなくなってしまうだろう。