『遥か群衆を離れて』でもそういうところがあったけれども、かつてのイギリスではそれなりの地位にある軍人こそ女性たちのあこがれの的ではあったし、それこそ女性の前で剣を振り上げて剣舞を見せただけで、女性なんかみ~んなイチコロなのだった(らしい)。
この物語では、舞台となった町に軍隊が駐留することになり、その軍隊のモンブリィ大尉こそ「あら、カッコいいわ!」と、町の若い女性たちの狙うところではあった。そんなモンブリィ大尉を射落としたのは、町でもキレッキレの評判のローラではあった。
そのとき、軍隊の軍人たちも町の女性たちも、毎週土曜日から月曜日まで毎晩行われるダンス・パーティ―こそが最高の楽しみで、結婚したモンブリィ大尉もローラもやはりそのダンス・パーティを楽しみにしておったのだが、それがパーティー会場のそばの教会から「うるさいんだよね」とクレームが入り、「土曜日だけでもやめてくれんかのう」との申し入れを受ける。軍人や町の若い衆らは、「何言ってやんでえ!」と反撥し、皆を代表してモンブリィ大尉が教会のセインウェイ牧師に直談判に出かける。
ところが、談判からローラのもとに帰って来たモンブリィは、「いや、セインウェイ牧師の言うことももっともだよ」と、すっかり懐柔されてしまっている。それどころかついには、「オレは軍隊は辞めて牧師を目指して宗教の道を歩むぜ!」と言い始めてしまう。
折しもイギリスではペストの大流行が始まる。軍隊を辞めたモンブリィは、感染を抑え、感染者を助けるために献身的な努力をする。そして妻のローラには、そこまでに病魔もまん延していないとなり町に疎開させ、単身ペストの病魔と闘うのだった。
放置プレイされたローラが面白かろうはずもなく、そのとなり町で別の軍人と浮気するのだった。
まあ物語の終末を書けば、モンブリィは彼の尽力のおかげで収まりつつあったペストのさいごの犠牲者として亡くなるのだが、ローラはそのさいごの段階で、夫のモンブリィの手助けをするのだった。夫が死去し、ローラは愛人と再婚することも出来たのだがその道は選ばず、残る生涯を寡婦として生きたということだ。
‥‥こりゃ何だろう? 今でも、例えば夫が新興宗教にハマりこみ、自分のすべてを捨ててその宗教に生命を捧げてしまうことというのは、事実としてもあると想像できるし、まあこの物語は「新興宗教」の話ではなく正当な伝統ある宗教の話ではあるけれども、じっさいにこういうこともあっただろうな、などとは思ってしまう。
ハーディの筆致は、けっきょくは「教会」に肩入れしているように読めなくもないけれども、読み終えた感じではもっとニュートラルなところにあるようで、あくまで「ひとつの悲劇」として物語っているようではあった。