ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ニューヨーク、ジャクソンハイツへようこそ』(2015) フレデリック・ワイズマン:編集・監督

 ニューヨーク市のジャクソンハイツ地区とは、ニューヨーク市でいちばん東に位置する「クイーンズ区」にあって、ヒスパニック系、そしてアジア系の住民の最も多く住む地域で、この映画の解説でも「同地区は人種の坩堝として知られており、167の言語が話されている。中南米の各国に加え、パキスタンバングラデシュ、インド、タイ、ネパール、チベットなどの国々の大きなコミュニティが存在する」とされている。

 この作品はワイズマン監督の40本目の作品で、彼自身はこの作品について次のように語っている。

 「撮影方法は、通りの出来事、商売(衣料品店、コインランドリー、ベーカリー、レストラン、スーパーマーケット)、宗教施設(モスク、寺院、教会)を歩いて回ることで、合計120時間にのぼるシーンとショットを集めました。撮影を始めた時には、テーマも視点も、また映画の長さも、何も分かってはいませんでした。
 この映画は9週間の撮影と10ヶ月の編集から生まれました。編集においては、(1)その場所の私の記憶(2)ラッシュフィルムの中にある記憶の記録(3)私の一般的な経験(4)個々のシーンで何が起こっているのかを理解しようとする編集プロセス、という4つの<対話>を行い、そこから使用する素材を選択して編集し、シークエンス間の視覚的およびテーマ的な接点を探すのです。この映画は、その<対話>から形を見つけ、この映画の制作経験から私が学んだことを表現しています。」

 この作品をわたしが観て思ったのは、それがどこまでこの「ジャクソンハイツ」という「場」に特有のことなのかはわからないのだけれども、「多様性」を受け入れようとする町の姿勢であり、そのことをくみ取って一本の映画として伝わるように組み立てたワイズマン監督の手腕に感じ入った、ということだろうか。
 しかしこの作品でも、商業的にこの地域への大資本の攻勢ということがひとつのポイントになっていて、小規模な商店が営業を続けられなくもなり、そのあとに大資本の店の支店が入って来てしまうのだ。これは日本なんかでも同じような事態もあるかと思うが、この映画では「GAP」がこの地域に開店し、開店セールで何と70パーセント引きなどという営業をやるのだという。周囲の小売店がたまらず店をたたむと、それまでの「70パーセント引き」をやめるのだ。そういうグローバリゼーションへの大きな流れもあらわれた時期でもあったろうし、今の日本でも同じような問題が起きているのではないかと思う。

 この地域はLGBTQの人たちの主張の大きな地域でもあり、毎年大きな「レインボープライドパレード」が行われ、その様子ももちろんこの映画で紹介されてもいる。
 そもそもが多国籍、他民族の人が住む地域として、「マイノリティ」であることが常態であるというか、誰も「自分こそがマジョリティだ」などとしゃしゃり出ることのない地域、という印象も受けた。
 それは決して、この「ジャクソンハイツ」という場に理想郷があるというのではなく、ワイズマン監督が、「ジャクソンハイツ」の中に理想郷への萌芽をみていたというか、「わたしたちはより良い世界を構築出来るのではないか」ということをみていたということではないかと思うのだった。特にこの日本での、時にあまりに排他的な社会を目にすると、余計にそう思うのだろうか。