ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『月 人との豊かなかかわりの歴史』ベアント・ブルンナー:著 山川純子:訳

 前に読んだ『水族館の歴史』の著者と同じ翻訳者による、今度は「月」と人間とのかかわりの歴史をとらえた本。一種博識な著者による、科学的・文化的エッセイといえる。

 昨夜の「月蝕」も、今でこそわたしたちはそれが太陽と月とのあいだに地球がはいり、月に地球の影がかかるのだと知っているけれども、それでもやはりどこか「神秘的」と感じるし、そんな科学的知識のなかった時代の人たちは、いったいこの現象をどのように見ていたのだろうか。
 この本は、まさに神話時代から現代までの人と月とのかかわりの歴史を、けっこうレアな豊富な挿画とともに語った本。それはもちろん科学(宇宙学)の発展の歴史でもあるのだけれども、実は月による潮の満ち干との関係から人間の身体の医学ともリンクしている歴史もあるし、同じく動物学にも関係する。そして、文学、絵画(月岡芳年の「月百姿」が挿画付きで紹介されてもいる)、音楽、そして映画という、人の文化にも月は大きな影響を与えているわけだ。そのあたりを要領よくまとめた本として面白く読めた本だった。この著者にはもう一冊、『熊:人類との「共存」の歴史』という翻訳も出ているようで、その本も読んでみたくなった。

 ただ、この本に関してのわたしの興味として、「文学」の中での月の扱いについてはもっと掘り下げてほしかった気がするところはあるけれども、まあ突き進めばどんどんマニアックなところに行ってしまうだろうから、「文学」に限らず「映画」にしても、このそんなに分厚くもない書物ではこのあたりが限界で、「あとは自分で想起してみなさい」というところだろう。

 後半は科学の発展とともに、つまりは「アポロ計画」に焦点をあてたような内容になり、けっこう「科学エッセイ」的にシフトしてしまうが、もういちど、「アポロ計画」とは何だったのかを振り返り、「アポロ計画」以後の月探索の現在も書かれていて、興味深かった。
 じっさい、アポロ11号が月面着陸を成功させて50年以上が経過し(あの「ウッドストック」と同じ年だったのだ)、その後大きな月の探索というのもニュースにならず、「月に人間が降り立ったことがある」という記憶も薄れてきているというか、今生きている人のほとんどは「アポロ11号の月面着陸」をリアルタイムに見聞してはいないわけだ。

 この本で面白いのは、今でもはびこる「月面着陸はウソ」という「陰謀論」のことを、通り一遍ではなくかなり踏み込んで書いていることでもある。もしかしたら、今ネット上にはびこる各種「陰謀論」の、そもそもの始まりは、この「月面着陸はウソ」あたりから始まっていたのかもしれないと思ったりする。
 そもそも過去には、月には「月人」というような存在がいるのだということがいわれてもいて、SFのかっこうの題材にもなっていて、それが古い時代には「月人」は美しい、理想的な存在ともいえるように描かれていたのが、もちろんそれは人々が月に抱くイメージの投影だったのだろうけれども、特に「東西冷戦」の時期から、「もしも月に生命体が存在するとしても、それは人類に敵対する邪悪な存在だろう」みたいにシフトしてくるのだという。
 まあ今でもごくわずかながら、「月には生命体が存在する」としている人もいるらしいけれども、まあ20世紀後半には「月に生命は存在しない」ということに落ち着き、それでそれまでSFの世界で悪役だった「月人」は追いやられ消し去られ、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』やティム・バートンの『マーズ・アタック!』のように、悪役はすっかり「火星」の専売特許になってしまったようだ。

 でも、いつも思うことだけれども、「まったくの偶然」から、地球から見た太陽と月の大きさはほぼ同一で、太陽はもちろん地球の「昼」の世界を支配しているけれども、月はつまりは「夜」を支配している(いつもいつもではないけれども)。そのことはやはり、人の思考に大きな影響を与えていることと思う。この本にも、精神医学の歴史の中での「月」の存在について書かれてもいるけれども、例えば「吸血鬼」、「狼男」などの伝説での「月」の意味とか、もうちょっと知りたいものだ。

 この本には、ポピュラー音楽に関してもちょびっと記述があって、イタリアのミーナの「月影のナポリ」の歌詞の本来の意味などとっても面白かったが、まあ世の中には「月」を歌った曲というのはそれこそ山のようにあるわけで、「お題」ではないけれども、いろんな人がいろんな「月」を歌った曲を愛好しておられることだろうから、そんなみんなの「<月>の曲・ベストテン」とかをみてみたいとは思う。わたしもやってみよう。

Slapp Happy 「Casablanca Moon」
・Incredible String Band 「Waltz Of The New Moon」
Nick Drake 「Pink Moon」
・Bert Jansch 「Moonshine」
Mike Oldfield 「Moonlight Shadow」
・Alex Chilton 「No More The Moon Shines On Lorena」
・Cowboy Junkies 「Blue Moon Revisited (Song For Elvis)」
Neil Young 「Harvest Moon」
・Les Paul and Mary Ford 「How High The Moon」
・Steeleye Span 「Drink Down The Moon」

 入れ忘れた3曲。
Soft Machine 「Moon In June」
Frank Zappa & The Mothers Of Invention 「Concentration Moon」
・Fairport Convention 「Rising For The Moon」