ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ゼロ・グラビティ』(2013) アルフォンソ・キュアロン:製作・脚本・監督

ゼロ・グラビティ [Blu-ray]

ゼロ・グラビティ [Blu-ray]

  • 発売日: 2014/12/03
  • メディア: Blu-ray

 この作品は好きで、年に一回は観返していると思う。長さも90分ぐらいでお手頃で、ちょっと空いた時間でも「観てみようか」という気になれる。

 とにかくは冒頭のSFX画面で、「いくらSFXだといっても(というかSFXだからこそ)どうやって撮影したのだろう?」という、ワンシーンワンカット長回しで強烈に持って行かれてしまう(撮影はエマニュエル・ルベツキ)。そのあとの展開もまさに「サスペンスフル」で、その映像とともにラストまで引きずられてしまう。

 先に書いておくと、この作品が「ヒトの胎内からの<誕生>」という暗喩で成り立っていることは誰もが了解するところだろうと思うのだが、そこでもうひとつ、この作品にはあのスタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』への2013年からのアンサー、という意味合いもあるだろうと思っている。

 もちろんこの『ゼロ・グラビティ』は月にも行かないし、「木星」なんて夢の夢の世界ではある。
 映画『2001年宇宙の旅』は「2001年の宇宙探索はこのぐらい進化してるかも?」という「夢」で成り立っているSF映画である。そこでこの『ゼロ・グラビティ』は、作品製作時の2012年とか2013年の、リアルな「宇宙探索」の現実をこそ映像化しているではないのかといえる。
 宇宙船ディスカバリー号は小さなスペースシャトルに置き換えられ、宇宙ステーションは登場するが、『2001年宇宙の旅』の宇宙ステーションとは似ても似つかぬ「掘っ立て小屋」みたいな存在である。『2001年宇宙の旅』では月から木星へと信号を発信する「モノリス」が発見され、ディスカバリー号は木製へ向かうのだが、この『ゼロ・グラビティ』では遠く宇宙のことを探索するのは「ハッブル宇宙望遠鏡」であり、ヒロインのライアンはそのハッブル望遠鏡の整備を行っているわけだ。

 『ゼロ・グラビティ』は宇宙(といっても地上600キロ)から見られた地球の映像から始まる。ここのところで、観客は「そういえば、『2001年宇宙の旅』で宇宙から見られる地球の姿はぜ~んぜん違っていたな」と思わないだろうか? わたしは思った。
 じっさいに人が大気圏外に飛び出し、そんな場所から地球を眺めたとき、地上の雲の描くマーブル模様(?)に、「こんなに美しいのか!」と驚愕したのだと思う。残念ながら『2001年宇宙の旅』製作時には「宇宙から地球はどう見えるか」ということはわかっていなくって、のっぺりとした地球像になってしまっていた。そこを『ゼロ・グラビティ』では「ほんとうは地球はこう見える」と、『2001年宇宙の旅』に対抗(?)してみせたのではないか。そして、「2013年の宇宙探索のほんとうのところはこれだ!」ということをも見せてくれたのだろう。

 もうひとつ、『2001年宇宙の旅』との比較を書いておくと、ライアン博士がようやく宇宙ステーションへ避難して、無重力状態で宇宙服を脱ぎ捨てる印象的なシーンがあるのだけれども、このシーンでバックに見られる円形の構造からも、『2001年宇宙の旅』の宇宙ステーション内のシーンで、アテンダントみたいな女性が無重力状態で(直立状態でだけれども)回転するシーンに対応していないだろうか。もちろん、『ゼロ・グラビティ』に含まれる暗喩では、ライアン博士が「胎児」にほかならないことを示しているわけだけれども。
 ここでライアン博士が胎児なのだと了解するとすれば、『2001年宇宙の旅』のボーマン船長も「胎児」として転生(?)することが思い出される。まあ『2001年宇宙の旅』ではその胎児の中に「人類の進化の過程、そしてその先」という<壮大>なテーマが示されるのだけれども。

 そういう風に、わたしはどうしても、この『ゼロ・グラビティ』はどこかで、あの『2001年宇宙の旅』に対峙していると思ってしまうのである。「2013年の現実はこんなに卑小なのよ」とでもいえばいいのか。
 書かずもがなだけれども、ライアン博士が中国の宇宙船「神舟」で大気圏突入するのは「出産」の過程ではあるだろうし、「神舟」が地上の湖に着水して浸水、その湖からライアン博士が這い上がるのはまさに「誕生」。湖は「羊水」の比喩ではあろう。
 まあそんなことを考え始めると、指揮官のマットは誰なのか?とか考えてキリがなくなってしまうが。

 しかし、生身で出てくる出演者はサンドラ・ブロックジョージ・クルーニーの二人だけ(あとはカエル)、そして無線で聞こえてくる「声」だけという演出の緊迫感は見ごたえがあり、だから『2001年宇宙の旅』と比較してどうとかいうより、ただぽわ~んと観て楽しめる映画というところで、わたしはいつもこの映画が気に入っている。