ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『コーヒーと恋愛』獅子文六:著

 つまらない本を読んだ。世の中にはこういう「大衆路線」の小説が存在することは知ってはいたが、読んでみてここまでにつまらないものだとは知らなかった。ストーリーがどうこうとか言う前に、この<小説>の文章がひどい。これは「日本語」ではない。とにかく「句点」の使い方がめっちゃくちゃだ。単純にいえば<句点があまりに多すぎる>ということで、これは読みにくいこと甚だしい、などというものではない。この対極に先日読んだイーヴリン・ウォーの『ピンフォールドの試練』のあとがきの、どこまでも句点のない吉田健一氏の文章があるけれども、<日本語>というときに、「何を読ませるか」という<問い>を考えるとき、どちらが<文学的>か、という答えは明らかすぎる。

 獅子文六という人は昔は日本演劇界の重鎮でもあったらしく、そういう当時の「テレビ界」、「演劇界」というもののせめぎ合いというものはリアルに感じていたのだろうが、だからどうなのか、ということで面白いものではない。ただ作品中で「フランスの前衛演劇」として「河馬」という作品を日本で舞台化するという話があるのだけれども、これはつまりイヨネスコの『犀』のことで、このあたり「どうなのよ」とちょっと調べてみると、日本でのイヨネスコの『犀』の初演は1960年、「文学座」によるものらしく、この本の記述とみごとに符合していることになるわけではあった。

 まあそんなことがあっても「クソ」みたいな小説であることに変わりはなく、こんな本を読んでわたしの人生の貴重な数時間を費やしてしまったことを悔い、「わたしの貴重な時間を返してくれ!」と絶叫したくもなるというものではあった。これ以降、わたしに面と向かって『コーヒーと恋愛』という言葉は発しないでいただきたい。