ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『アラビアのロレンス』(1962) デヴィッド・リーン:監督

 3時間を超える大作。それで主人公は「英雄(ヒーロー)」でもあり、変節した人物でもあり、挫折した人物でもある。こんな屈折した映画がよくもこれだけの<大作>として世に受け入れられ大ヒットし、しかも正当な評価を受けているということに驚くのだけれども、とにかくは映像はあまりに素晴らしい。『2001年宇宙の旅』ぐらいに、大画面スクリーンで観たくなる作品ではある。
 この映画の第二班の撮影監督は、このあいだ観た『ジェラシー』の監督のニコラス・ローグが担当しているわけだが、その「第二班」はどの部分の撮影にあたっていたのかわからない。あの強烈な<砂漠>のシーンの数々を担当していたのがニコラス・ローグだと思いたいところだが。

 この映画には、女性はまるっきし登場しない。わずかにハウェイタット族の出陣の時、谷間の高台に立つ女性たちがザガリートで送り出すシーンに、その存在があらわされるのみだった。
 しかし女性が登場しないとはいえ、この映画は「エロス」の映画でもあると思う。そもそも知られているように主人公のT・E・ロレンスは同性愛者だったわけで、この映画のひとつの観方でのメインテーマは、そのロレンス(ピーター・オトゥール)とシャリーフ・アリ(オマー・シャリフ)とのプラトニックな<愛>の関係とも読み取れるわけだし、ロレンスが<お稚児さん>的な二人のアラブ人少年をひいきにしたことも、この映画のポイント。そしてトルコ軍に捕らえられたロレンスは、将軍のホセ・フェラー*1に凌辱されることで<変節>してしまうのだ。わたし的には、この後半でロレンスが<ならず者>を引き連れてラクダに乗って行進するシーンが、あまりに強烈すぎた。それはシャリーフ・アリもショックだったことだろう。

 当時のアラブの地勢状況を的確に捉えて描き、その中である意味<捨て駒>にされたロレンスのドラマを、感傷的にならずにドライに描いたデヴィッド・リーンの演出は、やはり見事なものだったと思うしかない。
 

*1:この映画でのホセ・フェラーはほんっといやらしくって、助演男優賞あげてもいいぐらいの好演なのだけれども、この人がローズマリー・クルーニーの旦那さんだったことがあったというのには驚愕。