ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

「地球星人」村田沙耶香:著

地球星人

地球星人

 去年、杉田水脈とかいう議員が「LGBTQの人たちは<生産性>がない」、つまり、子どもを産んで繁殖させないではないかみたいなことをぬかしていたわけだけれども、この「地球星人」のひとつのテーマに、そういうマイノリティーへの<世間>からの攻撃、ということがある。

 「自分はどこかで拾われた子で、今の父母の子ではないのではないのか?」という<ファンタジー>(フロイト?)があったと思うのだが、今、そのことが思い出せない(あとで調べてわかったが、「ファミリー・ロマンス」だ)。しかし、この作品の主人公の奈月のいとこの由宇は、自分のことを「宇宙人」だと思っているし、主人公の奈月は、自分は「選ばれた<魔法少女>」だと思っている。その彼方には、「ポハピピンポボピア星人」というのがいる。それが奈月の心の支えというか、彼女は家庭内でDVにさらされ、通う塾の先生には性的な陵辱を受ける。彼女の救いは、毎年お盆の時期に家族で行く長野の秋級(あきしな)で会えるいとこの由宇との交流。意気投合したふたりは「結婚」することにし、「セックス」しようということになる(このとき二人はまだ小学生)。その現場を親族に発見され、二人はもちろん隔離される。奈月はいつまでも陵辱をつづける塾教師を<魔法少女>の力を駆使し、<魔女>を倒すとして真夜中に塾教師の家に忍び込み、殺害する。
 ‥‥事件は迷宮入りし、成人した奈月は陵辱のため食べ物の味もわからなくなり、もちろんセックスは拒否する女性になる。「すり抜け・ドットコム」というサイトで知り合った智臣という男と結婚するというか共に暮らすようになるが、智臣もまたセックスは拒否する人間ではある。
 周囲は二人の生活に口をはさむようになり、夫婦で「仲良く」(=セックスする)のでなければ、子どもを産まないのなら、別れるべきだと二人を攻めるのだ。
 智臣の理解では世界は「工場」であり、システムの中で生きて行かされる。結婚は繁殖のための手段であり、そこから外れて生きることは許されない。もちろん、奈月もその考えに同意する。そんな二人が逃れるのは「秋級」の世界の原風景のような土地であり、そこで二人は由宇と出会う。この三人が、「ポハピピンポボピア星人」としての新しい生を目指す。

 ‥‥表面的に読めば、この今現在の社会をモデルとした「ディストピア小説」でもあるのだけれども、「わたしはこの地球の住民ではない」という<ファンタジー>が予想外に膨張し、そこにグロテスクな<別世界>が描かれることになる。‥‥キモい。キモいのだが、そこに至るまでのディテールが書き込まれているので、このラストには異様な説得力があると思った。そういう、由宇と奈月の「オレは拾われて来た<捨て子>だったのかも?」とか、「わたしは<魔法少女>なの」みたいな、少年少女時代の多くの子が抱く<妄想>(でもないのだが)が、智臣の、もっと成人した理論として「排除されるもののロジック」と出会ったとき、<別世界>を生み出す。そこにこの作品の「説得力」があるのだろうか。
 これはこれで、「カタストロフに対抗するリアルな<文学>の力」、とはいえるだろうと思った。それでやはり、夫の智臣の言葉、「本当に怖いのは、世界に喋らされている言葉を、自分の言葉だと思ってしまうことだ」、ということは痛切だろう、と思うのだ。