ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『団地妻 隣のヒミツ』(2001) いまおかしんじ:脚本 サトウトシキ:監督

団地妻 隣りのあえぎ

団地妻 隣りのあえぎ

  • メディア: Prime Video

 劇場公開時のタイトルは『団地妻 隣のあえぎ』。団地の5階の空き部屋に入り込んで一服していた3階の黒田夫妻の妻は、隣部屋からのあえぎ声を聞いてしまう。そこに突然、その隣部屋の石井夫妻の夫がその空き部屋に入ってきて、「あのあえぎ声は自分の妻が男を引っ張り込んでセックスしているのだ」という。石井の夫は仕事もクビになっていて、ずっと出社するフリをして妻のことを探っているのだが、妻にはなにも言えないでいる。逆に妻に「あなたも勝手にやったら」と言われる。一方黒田夫妻の夫ははげしい「腰痛」で、しばらくセックスレスのふたりではある。
 妙なことで知り合った黒田妻と石井夫の二人は、いっしょにパチンコをしたり居酒屋に行ったりディスコへ行ったりするようになる。黒田夫は妻の行状を知り、5階の石井家に妻を連れて行き、石井夫から「もう会わない」との確約を取るのだが、しかしふたりは会いつづける。

 この作品は、「もう若くはない」と思い始めた人々を勇気づけるオマージュというか、わたしなどのようにとっくに「若い」などとは言えなくなった男にも、何か爽快な感覚を与えてくれる作品だ。それは多少は男と女の絡みはあるけれども、ほとんど官能的というわけでもなく、セックスの問題をテーマにしているとはいえ、もう「ピンク映画」などとは言えないんじゃないかな。
 黒田の妻が「このまま少しずつ歳をとっておばさんになって、だんだん踊りとかできなくなっちゃうのかな?って少し思っただけ」と語るのだけれども、「いや、そうじゃない、まだダンスできるさ」という映画か。

 石井夫と黒田妻はバスに乗って東京湾に海を見に行くのだけれども、さいごに「破局か?」というときに、電車で鎌倉へ行き海を見て旅館に泊まる。この東京湾の海、そして鎌倉の海とがすばらしく、それはやはり「鎌倉の海」なのだが、いろんな映画での「海」の描き方でもピカイチの演出ではなかっただろうか。
 旅館で一泊したあと、石井夫は「もうやめよう」と浴衣のまま逃げ出し、黒田妻もやはり浴衣姿で追い、路上で追いついた黒田妻は石井夫をボコボコになぐる。そのシーンを撮るカメラが角度を変えると、黒田妻の前にはで~んと鎌倉の海。

 黒田夫にも鬱屈とした日々、夜々があるのだけれども、妻が帰って来ないときに、「むかし取った杵柄」というか、衣装箪笥から「サタディーナイトフィーヴァー」みたいな、ダンス衣装を取り出して着替え、ラテン音楽で踊るのである。このラテン音楽がそのまま鎌倉で追いかけっこするふたりの映像にもかぶさり、実に小気味よい。
 その前の序盤にも、黒田妻が夜中にハデハデしいダンス衣装に着替えて夫に見つかるシーンがあり、なんとなくこの夫婦の出会いというか馴れ初めが想像できる。ラストは団地に帰って来た石井夫は妻と和合するし、黒田夫妻は団地の部屋の中でデュオで踊るのである。いいラストシーンだ。

 サトウトシキ監督も、いいかげん何本も「団地妻」シリーズを撮っているだろうから、もう団地の2DKの室内の撮影が堂に入っている。二部屋を真ん中の仕切りで左右に分けて左右の人物を撮ったり、それなりに「狭さ」を感じさせたり広く見せたり、自在である。
 全体の構成として、2組の夫婦の緩衝地帯としての団地の「空き部屋」があり、それが「バス」→「東京湾」、「電車」→「鎌倉の海」と移動する(それと、黒田夫の取るコースも別にあるが)。団地の2DKの住居からの、あまりにステキなトリップである。わたしは大好きな作品だ。