ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『パリ、テキサス』(1984) ロビー・ミューラー:撮影 ヴィム・ヴェンダース:監督

 ヴィム・ヴェンダースは昔からの友人サム・シェパードと共に「アメリカについての作品を撮りたい」と考え、サム・シェパードの「Motel Chronicles」を2人でアレンジすることを検討する。さいしょは「どこからともなく現れ、行くあてもない奇妙な男」というアイディアからスタートしたそうで、主演はサム・シェパードの予定だったという(映画会社がサム・シェパードを「俳優」と認識していなかったため、叶わなかった。また、サム・シェパードも「身近すぎて演じられない」と言っていたらしい)。
 シェパードが脚本を書き、まだ脚本の全体が完成しないうちに「順撮り」で撮影が始まるが、その後シェパードが『カントリー』という作品に出演するために脚本を書けなくなり、L・М・キット・カーソンが以後の脚本に協力するが、当初から撮影をしながら先の脚本を考えていく方策を取り、その途中ではいろいろなストーリー案があったらしい。
 撮影監督のロビー・ミューラーヴェンダースは翌日の撮影の構想を徹夜で話し合い、共に車で撮影地(ロサンゼルスからテキサスへの道)をドライヴし、そのときに撮影することもあったらしい。

 主な出演者はトラヴィスハリー・ディーン・スタントン、トラヴィスの弟のウォルトのディーン・ストックウェル、その妻のアンのオーロール・クレマン、そしてトラヴィスの妻のジェーンのナスターシャ・キンスキー、トラヴィスとジェーンの子、ハンター役のハンター・カーソンの5人だけれども、ハンター・カーソンは脚本で参加したL・М・キット・カーソンの息子さんなのだ。
 そしてわたしは、アン役のオーロール・クレマンという女優さんの顔に見覚えがあったもので調べてみたら、なんと先日観たヴィクトル・エリセの『エル・スール』で、劇中の映画の中で「イレーネ・リオス」を演じていた女優さんなのだった。この偶然にはちょっとおどろいた。

 作品として、ストーリーがジョン・フォードの『捜索者』に似ているという意見もあるようだが、わたしは『捜索者』の記憶がないのでそのあたりはわからない。でもわたしは、同じヴェンダース監督の『都会のアリス』には似ていると思った。

 わたしが観た感じではこの作品は3部にわかれていて、さいしょはテキサスの荒涼とした地で発見されたトラヴィスをウォルトが迎えに行き、ロサンゼルスに連れ帰るまで。
 次のパートはトラヴィスがウォルト家の空気に馴れ、そこにいた自分の息子のハンターと親子の情を通わせるまで。
 そしてさいごは、トラヴィスとハンターとがハンターのお母さんのジェーンを探しにヒューストンへ行き、トラヴィスがジェーンと再会する。

 ロビー・ミューラーの印象に残る美しい撮影と、ライ・クーダーによる余韻たっぷりのスライドギターの音色とで、映画はアメリカ西部の荒涼とした風景を詩的に描き出している。「ロード・ムーヴィー」として評価の高い所以(ゆえん)だろうと思う。冒頭、ハリー・ディーン・スタントンの被っている赤い帽子、そしてヒューストンへ旅立つときのハリー・ディーン・スタントンとハンターの着ている赤いシャツ、二人が泊まったホテルの部屋の赤いラジオ、「Coca Cola」の赤い看板、そしてナスターシャ・キンスキーの乗る赤い車と、全編にわたって赤い色が印象的に使われていたことも記憶に残る。

 この映画、わたしはもっとアーティスティックな、観ていて疲れる作品かとの先入観もあったのだけれども、前半のハリー・ディーン・スタントンの「コミカル」でもある演技、そしてウォルト夫妻とハンターとの「家族愛」の展開、それからハンターを演じるハンター・カーソンの、生き生きとした愛らしいふるまいに観て飽きることもなく、そのあとのハリー・ディーン・スタントンナスターシャ・キンスキーとの切なく哀しい「対話」へと引っ張られてしまうのだった。ラストのナスターシャ・キンスキーとハンター・カーソンとの再会シーン(長回し)はもう、わたしは泣くしかなかった。さいごのハンターのセリフ、「ママ、髪が濡れてる」、というのがたまらない。