ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『三十九夜』(1935) アルフレッド・ヒッチコック:監督

三十九夜 [DVD]

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  • ロバート・ドーナット
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 昨日観た『暗殺者の家』がわたし向きの映画ではなかったところから、この『三十九夜』は「どうだろう?」との不安もあったけれども、内容的にちょびっと昨日の『暗殺者の家』に重なる「国際的犯罪組織(スパイ組織)」に関わった男の話だったが、こちらはとっても面白く観ることが出来た。Wikipediaによると、英国映画協会がアンケート調査した「20世紀の英国映画トップ100」で、第4位にランクされているらしいし、オーソン・ウェルズはこの作品を「傑作である」と語ったという。
 
 この映画、原題は「39 Steps」で、これがなぜ『三十九夜』の邦題になってしまったのかはわからないけれど、この映画には評判になった原作小説があり、その邦訳のタイトルは(正しく)『三十九階段』である。

 主役のハネイを演じたのはロバート・ドーナットで、この人はいわゆる「二枚目スター」で当時人気があったようだけれども、慢性的に喘息に悩まされていて、映画出演は活動期間に比べて少なかったという。ヒッチコックもこの『三十九夜』でロバート・ドーナットを気に入り、何度か彼を再び使おうとしたけれども果たせなかったらしい。
 一方、後半にハネイといっしょに活躍するパメラという女性は、マデリーン・キャロルが演じている。この女優さんもイギリスとアメリカの両方で人気のあった人で、「ヒッチコック好みの金髪の美女」としてこの作品でブレイクしたという。ヒッチコックは次作の『間諜最後の日』でも彼女をヒロインとして使うのだった。
 もうひとり、この映画には逃亡中のハネイが立ち寄る農家の夫人として、ペギー・アシュクロフトが出演している。
 彼女はこの映画から約50年ののち、デヴィッド・リーン監督の『インドへの道』に出演して多くの女優賞を獲得することになる。

 映画はロンドンのとあるミュージックホールの観客だったハネイが、そのホールでの銃撃騒ぎから逃れて帰るとき、やはりそのホールの観客だったという女性が「自分は狙われている」というので自宅に連れ帰ることから始まる。
 彼女はハネイに「外国のスパイ組織が軍の機密を盗もうとしていて、わたしはその秘密を知って狙われているのだ」「スパイのリーダーは手の小指が欠けている男だ」などと語るのだが、その夜にスコットランドの地図を手にして、背中を刺されて殺害される。
 ハネイはその女性の語ったことを信じ、彼女の語った「39階段」という言葉をたよりに、地図にマークされていた場所へと行くことにする(ここまでの展開は、昨日観た『暗殺者の家』と酷似していると思う)。

 しかし途中でハネイは新聞で自分が「殺人犯」として追われていることを知る。警官らが列車に乗り込んで来て、危ういところを列車から飛び降りて逃げる。地図にマークされた地の近くで農家に立ち寄り、その農家の夫人の助けで「ジョーダン教授」という地元の名士のところへ行くことに決める。そのジョーダン教授に会い、自分が聞いたスパイの話をすると、ジョーダン教授の小指は欠けているのだった。
 危うく殺されかけたハネイは警察へと逃げ込んで今までの話をするが、警察署長は教授の知り合いだと言い、まったく信用してはもらえず、逆に捕まりそうになる。
 逃げたハネイはひとりで教授の陰謀を暴こうと行動し、来るときの列車の中でいちど出会った女性、パメラと会うのだが、ついには2人いっしょに教授の仲間に捕まってしまうのだった。

 ここでハネイの行動は、「陰謀」を暴くことこそが、自分が自室で死んだ女性を殺した犯人ではないことを証明になるわけで、いやおうなく真相を探ることになる。
 この種の「巻き込まれ型」映画の原型のような作品でもあり、昨日の『暗殺者の家』に続いての「国際犯罪組織」の登場というのは、ヒトラーナチス抬頭の第二次世界大戦前夜のヨーロッパの空気を反映しているのだろうか。

 この作品でのラストのクライマックスは劇場の中で、主人公が機転を利かせてあの言葉「39階段」を大声で叫ぶことが「解決」につながるわけで、これは『暗殺者の家』でも「暗殺計画」の迫った劇場の中で、夫人が叫ぶことが暗殺を阻止することに似た展開。こういう展開はヒッチコックは好きらしく、もっともっとあとになって『引き裂かれたカーテン』でもこの手を使っている(わたしはこの映画のことはそれ以外何も記憶していないのだけれども、そのクライマックスの「劇場」のシーンだけ憶えているのだ)。
 書かなかったが、ハネイといっしょに捕まったあとのパメラの行動と心変わりも、とっても面白い。さいしょはハネイを疑っていたパメラだが、さいごにはハネイの心強い味方となるのだ。

 とにかくはこの『三十九夜』、わたしにも大変に面白い作品だったので、改めて昨日のことは忘れて「さすがヒッチコック」などと思うのだった。