ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『裏切りのサーカス』(2011) ジョン・ル・カレ:原作 トーマス・アルフレッドソン:監督

 まったくどういう映画だか知らずに、ただ本格的な、「スパイ」がいっぱい出て来る映画、ゲイリー・オールドマンが出ている映画、というぐらいの予備知識で観始めたのだけれども、監督のトーマス・アルフレッドソンという人は、2008年に『ぼくのエリ 200歳の少女』という作品で評判をとった監督で、わたしもこの映画は多少記憶に残っていて、インパクトの強い作品だったと思っている(もういちど観たいけれども)。
 そしてこの映画の原作者はジョン・ル・カレなのだった。ジョン・ル・カレといえば、かつての『寒い国から帰ったスパイ』(1965)という映画の原作者。わたしもずいぶん昔にこの映画観ているけれども、シブいスパイ映画だったなあ。

 それでこの『裏切りのサーカス』という作品、原題は「Tinker, Tailor, Soldier, Spy」で、なんだ、ル・カレの代表作というか、わたしは読んだことさえないがスパイ小説としては古典的な人気を誇る作品なのである。というかこの作品の前後にル・カレは同じスマイリーを主人公としたシリーズものを何作か書いていて、み~んな「名作」といわれている。
 そのジョージ・スマイリーをゲイリー・オールドマンが演じ、彼の他に先日英国王を演じているのを見たばかりのコリン・ファース、ネコの絵をいっぱい描いたルイス・ウエィンを演じていたのを映画館で観たばかりのベネディクト・カンバーバッチ、そしてジョン・ハート、久しぶりにその姿を見る、舞台演出家としても著名なサイモン・マクバーニーなどなどが出演しているのだった。

 話はまだ東西冷戦の時代の1965年、イギリスの諜報部、通称「サーカス」の中にソ連情報部の二重スパイ(もぐら)が潜入していることがわかり、スマイリーは部下の信頼できるピーター・ギラム(ベネディクト・カンバーバッチ)と共に探るという話が基本で、そこに東西のスパイの「さやあて」というか、そういう非情な闘争がいっしょに描かれるのである。

 映画の展開は決して「わかりやすい」描き方ではなく、付いて来れない観客には「はい、さようなら」という感じではある。もちろん原作を読んでいる観客には「そういうことか」と見通せるだろうが、そういうことだけでもなく、過去と現在との時制の錯綜する演出からも、前半の物語の基礎もわからない観客も出て来そうだ。
 導入部でハンガリーでロシア側と接触しようとしたサーカスの工作員が「わな」からロシア側に撃たれたりもするし、それとは別に、やはり若いサーカスの工作員イスタンブールでロシアの組織と絡む女性と知り合うという、ちょっと『寒い国から来たスパイ』的な展開の話もある。
 「サーカス」には4~5人の幹部がいて、スマイリーはいちおう表面的には退職しているのだが、外務次官のオリヴァー(サイモン・マクバーニー)の要請を受けて「もぐら」を探っているわけである。

 わたしに良くわからなかったのは、「え?<もぐら>は一人じゃなかったの?」あたりの終盤の展開で、けっきょくそのあと問題にされるのは一人だけではあったのだけれども、ラストにまたスマイリーが「サーカス」に復帰してテーブルに着くとき、テーブルにはスマイリーしかいなかったりする。やっぱもう一回観るとか、原作読まなくっちゃしかとはわからないかなあ。
 しかし、久々の「硬派」な作品で、観ていてゾクゾクするところもあり、非常に面白い作品だったことにまちがいはない。