ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(2017) ジョー・ライト:監督

 昨日観た『ヒトラー 〜最期の12日間〜』はまさにヒトラーの死までの12日間を描いた作品だったけれども、今日観たこの『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』は、いろんな思惑からチャーチルが「挙国一致内閣」の首相になる前日の1940年5月9日から、5月28日に国会で「ドイツとの和平交渉は行わない」との決定を宣言する演説を行うまでの20日間の物語である。まあ日記にもちょっと書いたけれど、邦題の「ヒトラーから世界を救った男」というのはいささか「誇大表示」で、いくら何でもそこまでのものでもないだろうと思う。原題は「Darkest Hour」。
 また、『ヒトラー 〜最期の12日間〜』がヒトラーの秘書を勤めたトラウドゥル・ユングをフィーチャーしていたように、このチャーチルの映画もまた、新しくチャーチルの秘書に赴任したエリザベス・レイトンの存在がフィーチャーされている。このエリザベス・レイトンを演じているのは、『ベイビー・ドライバー』で主人公の恋人を演じたリリー・ジェームズであった。
 チャーチルを演じているのはゲイリー・オールドマンで、日本の特殊メイクアップ・アーティストの辻一弘による特殊メイクを施されての出演。この年のアカデミー賞では、ゲイリー・オールドマンが「主演男優賞」を受賞し、辻一弘も「メイクアップ賞」を得ている。見た感じ、現実のチャーチルブルドッグのような頬をメイクでくっつけているんだろうけれども、とてもそれがメイクだとはわからない仕上がりだったと思うし、観ていてゲイリー・オールドマンってほんとうのところはどんな顔だったのか、思い出せなくなってしまっていた。
 あと、チャーチル夫人のクレメンティーンは、クリスティン・スコット・トーマスによって演じられていた。

 この映画で観るかぎり、チャーチルが首相になったのは前首相のチェンバレンチェンバレン内閣の外務大臣だったハリファックスとの意向だったようだが、本当はチェンバレンハリファックスこそ首相にしたく、チャーチルは「急場しのぎ」の場つなぎだったようだ。
 このときは国王は「ジョージ6世」で、まさに前に観た映画『英国王のスピーチ』の世界なのだけれども、あの映画でのクライマックスのジョージ6世のスピーチは、ドイツへの宣戦布告、国民の意識の鼓舞という役割を担った演説だったわけだけれども、この映画でのさいしょのうち、ジョージ6世は新しい首相のチャーチルには冷淡である。

 しかし、チェンバレンハリファックスヒトラーとの和平交渉の準備を始めていて、その仲介役はイタリアのムッソリーニになるという。
 また、大陸でドイツ軍に追い詰められたイギリス軍、フランス軍ダンケルク、カレー地区に追い詰められていて、もう後がない状態だった。ここでチャーチルはドイツ軍の眼をカレーに向けさせ、そのあいだに民間の船でも何でも集結させ、ダンケルクから兵士を救い出す「ダイナモ作戦」を実行しようとしていた。
 このあとジョージ6世のところをハリファックスが訪れ、「ドイツとの和平交渉」の意向を国王に伝える。それを聞いた国王はチャーチルの自宅を訪ね、彼の意向を聞く。
 このときチャーチルは不安にさいまなれ、まだ迷っているのだけれども、国王は「わたしは君を信頼している」と言うのだ。それは、ヒトラーがいちばん嫌がっているのは君の存在だからだと言い、チャーチルに「街に出て国民の声を聞きたまえ」と語る。まあどこまで「史実」だかわからないが、ゲイリー・オールドマンの演技にも感銘を受けるシーンだった。

 チャーチルは「では国民の声を聞こう」と翌日議事堂へ向かうときに送迎の車から降りてメトロに乗り、車内の人々の意見を聞くのである(完全にフィクションだろうが)。
 そして議事堂に着き、まずは大臣らに「和平交渉は行わない」ことを告げ、「あくまでドイツと戦う」という、国会でのこの映画のラストの演説になるのだ。

 観ていて、映画としては起承転結もしっかりしていて面白かったのだけれども、しかしコレはちょっと脚色が過ぎるのではないかという作品で、じっさいには差別主義者だったり、いろいろと問題のあったチャーチルという男をあまりに持ち上げすぎてるのではないかとは思う。しかしこの年のアメリカの大統領選挙でルーズベルトが大統領になり、彼がはっきりと「イギリス支持」を掲げることでチャーチルも助かったりもしたわけだ。