『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホット・ファズ』に続いてのエドガー・ライト脚本/監督、サイモン・ペッグ脚本/主演、そしてニック・フロスト出演という作品で、この3本で「3部作」となっているらしいく、プロデューサーも3作同じだし、3作で共通するところもいろいろある。というか、そっくりだったりもする。
例によってサイモン・ペッグが主演だから、冒頭から彼が登場するのだけれども、けっこう顔にシワも多くって、「あれ、老け顔のメークをやってるのかな?」と思ってしまったが、どうやら地の顔だったらしい。考えてみれば前作『ホット・ファズ』(2007)から6年経っているわけで、1970年生まれというサイモン・ペッグももう43歳なのだ。そういうせいなのかどうか、エドガー・ライトとのタッグはこの作品が(今のところ)さいご、になっている。
さて、今までの2作ではサイモン・ペッグは共演のニック・フロストに比べて「マトモ」だったというか、『ショーン・オブ・ザ・デッド』ではいささか優柔不断なところはあったとはいえ、「困ったちゃん」だったニック・フロストをリードしてゾンビ集団から逃れたし、『ホット・ファズ』ではまさに有能な警官として「ポリス映画オタク」だったニック・フロストをリードして田舎町の悪人どもを退治したわけだ。ところがこの『ワールズ・エンド』では、さいしょに登場したときから様子がおかしい。コレがなんと、「飲んだくれ」なのだ。
この作品、そのサイモン・ペッグ演じるゲイリー・キングという男が、学生時代の4人の仲間を20年ぶりにムリヤリ集め、学生時代に「あと一歩」で果たせなかった、故郷の町にある12軒のパブをハシゴして飲むという暴挙を、5人でやろうというのだ(タイトルの『ワールズ・エンド』というのは、その12軒のパブの終着点、最後のパブの店名でもある)。つまり、この作品では、ゲイリー・キングこそ「困ったちゃん」ではあるだろう。
皆と飲むためには「母が死んだ」などというウソを平気でつき、無茶な飲み方をし続けるゲイリーに他の4人は辟易し、ゲイリーを置いて飲み会を中止にしようなどと考えるのだが、そのうちにゲイリーがパブのトイレで若者とケンカをおっぱじめる。そうするとなんと! その若者は「ロボット」だったことがわかるのだった。実は、町の人々の多くは今や「ロボット」に置き換わってしまっていたのだった。
けっこう簡単にぶっ壊れるロボットらを蹴散らしながら、ゲイリーはあくまで「12軒のパブ制覇」にこだわり、残る4人も方策もなくゲイリーに付き合う。これでは『ショーン・オブ・ザ・デッド』のゾンビ共や、『ホット・ファズ』の田舎の悪人の群れとおんなじ流れであろう。
そのうちに彼らの学生時代の教師(ピアース・ブロスナン)が現われるが、彼もまた「ロボット」なのだった。「ザ・ネットワーク」を名乗る、彼ら「ロボット」を支配する声が響き、彼らはいくつもの星の文明を高めて支配するためにロボットを使っているのだという。「今のままでは地球は宇宙最低クラスの文明だから、わたしの仲間になるように」と。
もちろん5人は拒否するが大乱闘の末、仲間もひとり、ふたりと「ロボット化」されて行ってしまう。そんな中、ゲイリーは「アル中の集中治療」を受けているのを抜け出して来たこともわかる。
書いたように、ゲイリー・キングら主人公グループは多数の「敵」に囲まれることになり、「さてどうするか?」というのがこの3部作に共通した設定。この『ワールズ・エンド』ではその敵、「ザ・ネットワーク」の連中はゲイリーの「指図は受けたくない、勝手気ままに生きたい!」という言い分に呆れて地球を見捨ててしまう。
地球から「文明の利器」もすべて消え、人間たちは原始時代のような生活をするようになる。残された(元は人間だった)「ロボット」たちも、何とか人間たちといっしょに暮しているのであった。しかしてゲイリーは?
この映画、先日観たジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』に似ているところがある。それは「物質主義に溺れるな!」というメッセージであり、この映画のラストで文明なくして生きようとする人間らは、『デッド・ドント・ダイ』でトム・ウェイツが演った「世捨て人ボブ」にも似ているみたいだ。意外なところで、エドガー・ライト監督とジム・ジャームッシュ監督とは、近しい思想を持っているのかもしれない。
この作品ではヒロイン的な女性として、4人のひとりの妹が登場して「いい活躍」を見せてくれるのだが、演じているのはわたしが好きだった映画『ゴーン・ガール』のヒロインを演じていたロザムンド・パイク。しかもこのロザムンド・パイク、この作品に教師役で出演しているピアース・ブロスナンがジェームズ・ボンドを演じたとき、「ボンドガール」のひとりとして共演した過去があったらしい。
前作の『ホット・ファズ』では、やはりボンド役を演じていたティモシー・ダルトンも出演していたっけ。
相変わらずのテンポのいい演出とピッタリの音楽だったが、音楽はだいたいが90年代の音楽中心で、わたしの知らない曲も多かった。わたしにもわかっていっちばん笑わせてもらったのは、ドアーズの「アラバマ・ソング」だったかな。