ワニ狩り連絡帳2

前世のワニ狩りの楽しい思い出。ネコのニェネントとの暮らし。

『主戦場』(2019) ミキ・デザキ:製作・撮影・編集・監督

 この作品はミキ・デザキ監督の監督デビュー作であり、第二次世界大戦中の日本の「従軍慰安婦問題」をテーマにしている。
 まあドキュメンタリー作品とはいっても、わたしが最近観ているフレデリック・ワイズマン監督の作品とは方法論の異なるところもある。もちろん、ミキ・デザキ氏のこの作品での立場ははっきりしているのだが、そういう立場を表明するのにけっこう巧妙な編集はなされていると思った。
 結果として「従軍慰安婦問題」に否定的な(大韓民国の近年の主張に否定的な立場をとる)「歴史修正主義者」としてトニー・マラーノ、彼のマネージャー藤木俊一、山本優美子、藤岡信勝杉田水脈ケント・ギルバート櫻井よしこ、そして最後に「日本会議」の重鎮、加瀬英明らが登場し、彼ら、彼女らの「従軍慰安婦問題」に対する発言を取り上げ、映像的にそれらの発言の誤謬を突き付けているわけではある。それは同時に戦後日本の「戦争問題」の解決の仕方をも問うことになり、「靖国神社」とは何なのか、安倍晋三は何をやろうとしていたのか、ということをも問題にしてはいるだろう。はっきり言って、杉田水脈などはこの映像の中でしっかりと彼女の発言をおちょくられていて、失笑を買うような演出にはなっている。そもそも「大学院の卒業制作を目的としたインタビューを依頼され撮影に応じた」つもりだったというのが、先日の首相秘書官の「LGBTQだいっきらい」発言じゃないけど、「フェミニストの女性ってみ~んなブサイク」などということを、回っているカメラの前で言ってしまうというのは、いかにも「脇が甘すぎる」だろう(同じ発言を藤木俊一氏もしていた)。

 例えば今の国会で問題になっている「放送法文書問題」に関しても、この作品では2001年に行われた「女性国際戦犯法廷」を取材したNHKが、その報道に際して肝心の問題をカットして報道したことに、自民党の介入があったものとしているし、戦後に「戦犯」からアメリカの意向で政治の世界に復帰した岸信介、その孫の安倍晋三が「日本会議」で何を目指していたか、ということも示される。
 もともとそのような自民党的な言い分を信じていて「修正主義者」として活動していた日砂恵ケネディ氏の、「これはおかしい」と気づいてそれまでの自分の思想を180度転向させる話などインパクトが大きい。

 けっきょくわたしなどは、そんなにコアな「左翼活動」などをしている人間ではないし、「従軍慰安婦問題」に関しても「そりゃあ日本軍は<南京虐殺>もやっているし、韓国の女性らに対して<正当な方策で>娼婦に誘っているわけはないだろう」という、アバウトな気分で理解していたのだが、こうやってこの作品を観ることで、「はたしていったい旧日本軍が戦争中、アジアで何をやっていたのか?」ということがはっきり理解出来たようではある。

 このような作品がつくられた以上、既存の「歴史修正主義者」たちは、「この映画の製作・取材過程は違法だ」などと訴えるのではなく、客観的に「これは正しいだろう」というような、歴史的資料も掘り起こしての、この作品に拮抗し得る作品を作成するしかないのではないかとは思う。さまざまな映像をつくったりしているアメリカ右翼の「テキサス親父」なんかトランプ氏の復活を待っていないで、マネージャーの藤木俊一氏といっしょにそういう映像をつくるべきだろうと思うが。